欧州会計検査院、現行エネルギー税制の気候変動目標との不一致を指摘

(EU)

ブリュッセル発

2022年02月02日

欧州会計検査院(ECA)は1月31日、EUのエネルギー税制に関する報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。この報告書で現行のEUのエネルギー税制について、エネルギー源ごとの温室効果ガス(GHG)排出量と税の負担水準が必ずしも釣り合っておらず、エネルギー税制は気候変動目標と十分に一致していないと分析している。EUは2030年までにGHGの少なくとも55%削減(1990年比)を掲げており、この実現達成に向けて欧州委員会は2021年7月、エネルギー課税指令案を含む一連の法改正(2021年7月15日記事参照)を提案した。今回の報告書はこの改正案に関して、エネルギー税制の改正に伴う社会的な影響とのバランスを考慮した上で、エネルギー税制をいかに気候変動目標に一致させるかが今後の課題となると指摘している。

税負担と補助金の両面で、気候変動対策が不十分

まず、2018年のEU27加盟国のエネルギー源別の税負担額の平均に関して、二酸化炭素(CO2)の排出量が比較的少ない天然ガスは7.0ユーロ/メガワット時(MWh)の一方で、排出量がより多い石炭を含む固形化石燃料は2.9ユーロ/MWhと低く抑えられている。一部が低炭素エネルギー源により生産される電力も32.1ユーロ/MWhと、石炭などに比べて大幅に高いとし、より低炭素のエネルギー源が十分な税制上の優遇措置を受けられていないとした。また、道路輸送などの一部分野を除き、EU加盟国での現行の税負担水準は、OECDが策定した炭素価格のベンチマークでCO2の実質的な削減を誘引するとされるCO2の1トン当たり30ユーロの水準を下回っているとした。

エネルギー補助金については、EU全体での再生可能エネルギーに対する補助金が2008年から2019年にかけて3.9倍に増加しており、再生可能エネルギー比率の増加に貢献していると評価した。なお、欧州統計局(ユーロスタット)によると、2020年のEU全体の最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギー比率は、2020年目標値の20%を上回る22.1%を達成している(2022年1月25日記事参照)。一方で、化石燃料に対する補助金は2008年から2019年にかけて毎年550億ユーロから580億ユーロの水準を維持しており、減少していない。EU全体では、再生可能エネルギーに対する補助金は化石燃料に対する補助金を既に上回っているものの、15の加盟国ではまだに下回っている。こうしたことから、化石燃料に対する補助金が再生可能エネルギーへの移行の足かせになっていると指摘した。

さらに、チェコやスロバキアでは貧困層のエネルギー支出が収入の20%以上を超えるなど、一部の加盟国ではエネルギー税制は家計への影響が特に大きいことから、その改正に当たっては、こうした層からの反発を緩和するための施策が必要だとした。

(吉沼啓介)

(EU)

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