米財務省が為替報告書を公表、前回に引き続き「為替操作国・地域」認定はなし

(米国、スイス、ベトナム、台湾、日本、中国)

ニューヨーク発

2021年12月07日

米国財務省は12月3日、為替政策報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公表した。同報告書は半期に一度、議会に提出されるもので、今回は財・サービス貿易の輸出入総額上位20カ国・地域を中心に、2021年6月までの直近1年間の為替政策が分析・評価された。

今回の報告書では、前回と同様、「為替操作国・地域」に該当する国・地域はないと結論付けられた。為替操作国・地域指定は、2015年の貿易円滑化・貿易執行法で定められた3つの基準(注1)全てに該当するかどうかを基に判断される。前回の報告書では、スイス、ベトナム、台湾が基準を全て上回っていることが指摘されたが、「為替レート操作を裏付ける十分な証拠がない」として認定は見送られていた(2021年4月20日記事参照)。これらのうち、ベトナムと台湾は、前回に続き3つの基準を上回っていると指摘されたが、これまでの協議が満足できるものだ、などとして今回も認定は見送られ、状況改善に向けた協議を今後も続けるとした。スイスは、経常収支黒字に関する基準が改善したことから認定対象から外れ、「為替操作監視対象」リスト(注2)に加えられた。同リストには、スイスのほかに、日本、中国、韓国、ドイツ、アイルランド、イタリア、インド、マレーシア、シンガポール、タイ、メキシコの11カ国が指定されている。

今回の報告書で、日本については、為替介入額を毎月公表するなど透明性が高く、2011年以降は為替介入自体を行っていないなどとして一定の評価がされた一方で、前回と同様「為替介入は適切な事前協議を伴う非常に例外的な状況」に限定されるべきとくぎを刺した。また、長期的に潜在成長率を高めるために、企業や個人の生産性を向上させる構造改革に政策を転換すべきとしている。

中国については、米国に対する貿易黒字が約3,400億ドルまで拡大し、2015年以来の高水準になっていることが指摘された。加えて、中央銀行の為替資産と為替決済データの間に大きな乖離があり、国有銀行を通じた公的介入を含む中国の介入手法の全容を十分に捉えていないことを示している可能性があるとし、為替介入管理の不透明さを引き続き問題視した。さらに、中国は為替介入を公表しておらず、為替レート形成メカニズムについての透明性の欠如は主要経済国の中でも異例の存在と批判して、特に国有銀行の活動を注意深く監視する必要があるとした。

(注1)財・サービス貿易の輸出入総額上位20カ国・地域を対象に、(1)大幅な対米貿易黒字(年間150億ドル以上の財・サービス貿易黒字額)、(2)GDP比3%以上の経常収支黒字、またはGDP比1%以上の現在の経常収支と長期的経常収支の間の乖離、(3)持続的で一方的な為替介入(過去12カ月間のうち8カ月以上の介入かつGDP比2%以上の介入総額)、という3つの基準。なお、今回からサービス貿易を加味するといった変更が加えられている。

(注2)上記3つの基準のうち、2つに該当した国が登録されるリスト。登録された国は少なくとも今後2回の報告書で、監視対象国として3つの基準における改善が一時的でなく永続的なものとなっているかについて評価される。

(宮野慶太)

(米国、スイス、ベトナム、台湾、日本、中国)

ビジネス短信 5f9010843b617c5d