米下院で「ビルド・バック・ベター」法案可決、議会予算局は今後10年で3,670億ドル赤字と試算

(米国)

ニューヨーク発

2021年11月22日

米国下院は11月19日、「ビルド・バック・ベター」法案(H.R.5376)を賛成220、反対213で可決した。共和党は全員が反対に回り、民主党からは1人が反対した。通過した法案は上院に送付され、同法案をベースにさらに審議される。

下院の審議過程では、バイデン政権が提案した当初の「ビルド・バック・ベター」計画と比べ(2021年11月1日記事参照)、有給休暇取得支援や連邦政府による薬価交渉などの処方薬改革、連邦税から州・地方税の納税額を控除できる限度額の引き上げなどが新たに追加されている。その結果、支出規模は当初の約1兆8,500億ドル(移民対策を除く)から2兆ドル程度に膨らんだもようだ。

議会予算局(CBO)は採決前日の18日、同法案によって今後10年間で約3,670億ドルの財政赤字が発生する見通し外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。見通しの中でCBOは、バイデン政権の当初案に含まれている内国歳入庁(IRS)の徴税強化策について、関連法案が作成されていないことを理由に、その増収分は見通しに含めていないとした上で、暫定的な増収分を2,070億ドルと見込んでいた。これに対しジャネット・イエレン財務長官は、IRS徴税強化に関するCBOによる増収見込みは過少で、財務省の試算ではその増収分を4,000億ドル程度と見込んでいるなどとし、同法案のコストは「十分に支払われる」と主張した(ロイター11月18日)。こうした一連のやり取りは、巨額の財政赤字の発生を懸念しCBOの試算を見極めたいとして態度を保留していた中道派の下院議員に一定の安心感を与え、その多くが今回賛成に回ったもようだ。

今後の審議の舞台は上院に移るが、下院を通過した法案がそのまま承認されるかどうかは不透明だ。上院は与野党で勢力が拮抗(きっこう)しており、民主党は1人の造反も許されないが、中道派のジョー・マンチン議員(ウェストバージニア州)は足元の高インフレによる生活圧迫などを懸念し、1兆5,000億ドル以上の規模は認めないと主張する(2021年11月9日記事参照)。また、チャック・シューマー上院院内総務(ニューヨーク州)は「クリスマスまでに通過させたい」とするが(「CNBC」11月16日)、12月3日に期限を迎える2022会計年度(2021年10月~2022年9月)の暫定予算や、イエレン長官が「最新の試算では12月15日には資金が枯渇する」(「CNBC」11月16日)と指摘する債務上限問題の処理など、同法案以外にも課題が山積している(2021年10月1日記事10月8日記事参照)。上院で法案修正があった場合、下院での審議・可決が再度必要となることから、上院でも下院との調整を行いながら審議を進める必要があるとみられ、「ビルド・バック・ベター」法の成立には今後も紆余(うよ)曲折が予想される。

(宮野慶太)

(米国)

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