米上院、債務上限の一時的引き上げ法案可決、デフォルトはいったん回避へ
(米国)
ニューヨーク発
2021年10月08日
米国の連邦上院は10月7日、政府の債務上限を一時的に引き上げる法案を可決した。新たな債務借り入れが停止されている中、財務省は日々の資金繰りを手元資金で捻出している。この手元資金も10月18日ごろに尽きるとされていたが(2021年10月1日記事参照)、米国債などのデフォルトを回避するため、与野党がいったん合意にこぎつけた。今回の債務上限引き上げ額は4,800億ドルで、財務省は12月3日までの債務借り入れに十分な金額と見積もっている(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版10月7日)。与野党が合意していることから、下院でも同内容の法案が可決される見通しだ。
しかし、今回の延長は問題を先送りしたにすぎない。民主党は、債務上限引き上げ額は過去の支出を反映しただけと主張し、トランプ政権時に超党派で債務上限引き上げに対応したことを引き合いに(2019年8月7日記事参照)、共和党の協力を迫る。一方、共和党は、民主党が単独で進める3兆5,000億ドル規模の投資計画による財政赤字拡大に対して反対の姿勢を取っている。債務上限の引き上げはこの計画の支出に関連しているとして、財政調整措置(注)を用いて民主党単独で対応すべきと主張している。同措置の利用について民主党は、手続きが複雑で時間がかかり過ぎると否定的だが(2021年10月1日記事参照)、共和党のミッチ・マコーネル上院少数党院内総務(ケンタッキー州)は10月6日に発表した声明で「民主党政権は財政調整措置を通じて債務上限法案を単独で可決するのに十分な時間を得るだろう」として、その態度を崩していない。
法案可決前の10月6日時点では、現実味を帯びるデフォルト危機を前に、経済界から懸念が相次いでいた。ジョー・バイデン大統領と市場関係者の意見交換の場で、ナスダックのアデナ・フリードマン最高経営責任者(CEO)は1日か2日でもデフォルトに陥った場合、市場は大きく動揺し、株価などの下落を通じて退職金口座などの価値は大きく目減りし、人々の生活や退職後の計画などに自信を持てなくなると述べた。また、大統領経済諮問委員会(CEA)は、デフォルトに陥った場合、退職社会保障給付や健康保険、児童税額控除など多くの人々の生活の基礎となっている財政援助の支払いが困難になりうると警告した。
与野党協議の難航から、上院での採決ルールそのものを見直すべきとする声も出始めている。バイデン大統領は、今回のようなケースでは財政調整措置を取らずとも過半数の51票で可決できるようなルールの必要性を訴えた(「ワシントン・ポスト」紙電子版10月6日)。賛同の声も多い一方で、フィリバスターは少数党の意見の反映という民主主義における重要な側面を担っていることから、民主党内でも上院のジョー・マンチン議員(ウェストバージニア州)はルール変更に否定的な立場を表明している(政治専門誌「ザ・ヒル」10月6日)。財政調整措置は既に3兆5,000億ドル投資計画の手続きに適用されており、上院でのルール変更はこうした手続きにも関わり得る。今後は債務上限問題、3兆5,000億ドル投資計画、超党派インフラ法案が三つどもえになって、与野党間や与党内での激しい議論が予想され、12月のリミットまでにどのような着地となるかが注目される。
(注)歳出・歳入・財政赤字の変更に関する法案について、過半数で採決が可能となる措置。上院では通常、法案可決にはフィリバスター(議事妨害)を抑え込むため、クローチャー(討論終結)決議に必要な60票の賛成が必要となる。ただし、賛否が50票同数の場合、議長を務める副大統領の1票で採決となる。同措置は1会計年度につき1度のみの使用が慣例となっている。
(宮野慶太)
(米国)
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