欧州委、対内直接投資審査規則の運用状況に関する報告書を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年11月29日

欧州委員会は11月23日、安全保障や公の秩序の維持を目的とした対内直接投資審査規則の全面適用(2020年10月13日記事参照)から1年が経過したことを受け、初となる対内直接投資審査に関する報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。欧州委は、新たな通商戦略(注1)を2月に発表し、EUの利益擁護を全面に打ち出す姿勢を鮮明にしており、外資規制となる同規則もこの通商戦略の一翼として位置付けている。

欧州委が「意見」を出したのは、通知を受けた外国投資のうち3%以下

対内直接投資審査規則は、EU域外からの直接投資に対して、EUレベルでの共通した審査(スクリーニング)制度を設置するものではなく、各加盟国が設置する投資スクリーニング制度(注2)の運用において、欧州委と加盟国間の協力メカニズムを構築するものだ。この協力メカニズムにより、各加盟国が審査を実施する際には、当該審査に関する情報を欧州委および他の加盟国に提供することが求められ、欧州委または他の加盟国が、安全保障や公の秩序に影響を与える可能性があると判断した場合には、審査中の加盟国に対して、それぞれ「意見」あるいは「コメント」をすることができる。審査中の加盟国は、こうした意見やコメントを十分に検討した上で、承認の判断を出すことが求められる。

今回の報告書によると、2020年10月11日の適用開始から2021年6月30日までの協力メカニズムの運用状況について、11の加盟国が実施した265件の外国投資の審査に関する通知を受けたとした。欧州委は、このうち80%の外国投資については、通知から15日以内に問題がないとして詳細な調査を実施しないことを決定し、14%は追加情報の提供などを求めた。審査中の加盟国に対して最終的に意見を出したのは、全体の3%以下だった。通知を受けた外国投資のうち、最も多かった分野は、製造、情報通信技術(ICT)、卸・小売りで、投資額が最も高かった分野はICTだった。また、通知された外国投資の投資額は1,200ユーロから340億ユーロと、幅広い投資額の外国投資が対象となった。投資元の国については、米国と英国が全体の過半数で、中国は8%を占めた。

なお、今回の報告書によると、協力メカニズムの運用状況とは別に、2020年の加盟国全体の審査状況に関して、加盟国は合計1,793件の外国投資を審査し、そのうち無条件での承認が全体の79%、条件付き承認が12%、不承認は2%だったとしている。

こうした結果を踏まえて、欧州委は、今後もEUの利益を積極的に擁護していくとした上で、EUの強みである単一市場の開放性は依然として確保されている、と強調した。

(注1)EUの新通商戦略については調査レポート「EUの新通商戦略および最近のFTA動向」(2021年3月)参照。

(注2)投資スクリーニング制度の設置は義務でないものの、欧州委は全加盟国に設置を要請している。8月1日時点で、18の加盟国が既に投資スクリーニング制度を導入済みで、6カ国が導入に向けた検討を進めている。導入予定がない加盟国は、ブルガリア、クロアチア、キプロスのみ。

(吉沼啓介)

(EU)

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