カーボンリサイクル、社会実装に向け政策的支援が必要

(世界)

国際経済課

2021年10月05日

世界のカーボンニュートラル実現のキーテクノロジーであるカーボンリサイクルについて、日本や世界の産・学・官の最新技術や社会実装に向けた取り組みを紹介する「第3回カーボンリサイクル産学官国際会議2021」〔主催:経済産業省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、注1〕が10月4日、オンラインで開催された。同会議は2019年から開かれており、今回で3回目。

会議に参加した国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は「IEAのロードマップ(注2)で、2050年のネットゼロ達成に向けた400以上のマイルストーンを提示したが、二酸化炭素(CO2)の回収・利用・貯留(CCUS)はその中でも重要な役割。CCUSなしではネットゼロ達成は困難で、よりコストがかかる」と指摘した。東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の西村英俊事務総長は「東南アジアの脱炭素化では、資源が豊富でコスト優位がある石炭を中心とした化石燃料の利用を前提としている。また、この地域で生産される水素は(再生可能エネルギーから生産するグリーン水素ではなく)化石燃料ベースとなり、生産時に発生するCO2を回収する必要がある。今後も電力需要が伸びる東南アジアの低炭素社会への移行で、CCUSは重要」と述べた。

会議後半では、カーボンリサイクルによるCO2を利用した鉱物(コンクリートやセメント)、燃料や化学品の最新動向に関するパネルディスカッションが行われた。コンクリート建材にCO2を注入するカーボンリサイクル技術を持つカーボン・キュア・テクノロジーズ(カナダ)はCO2排出削減によるカーボンクレジットをECプラットフォームのショッピファイ(カナダ)などに販売しているという。同社のロバート・ニーブン会長兼最高経営責任者(CEO)は「今後も戦略的パートナーやコンクリートメーカーなど他社と連携することでスケールアップを求めていく。これまで400以上のコンクリート工場で当社技術が活用されたが、当社の2030年の目標である5億トンのCO2排出削減達成のため、途上国も含めた世界の大半のコンクリート工場で当社技術の導入を目指す。日本ではJISマーク認証を得られていないため、同認証取得に向けて準備を進めている」と、今後の取り組み方針を語った。

カーボンリサイクルの活用が期待される分野について、産業技術総合研究所(AIST)の小原春彦執行役員は「量的インパクトを考慮すれば、メタン(注3)などの合成燃料(注4)をはじめとする、燃料のグリーン化だ。合成燃料は自動車や航空機、船舶などでの利用が可能で注目される」と期待する。

カーボンリサイクル技術の社会実装に向けた課題について、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のポール・フェロン・グループリーダーは「コンクリートやセメントなどの鉱物へのCO2利用は追加コストをかけずに実現できる。一方で、化学品や燃料、メタネーション(注5)については、コスト面での課題がある」と説明。また、廃棄された炭素を活用して化学品や燃料を生産するカーボンリサイクルの技術を持つランザテック(米国)は「CO2回収・利用(CCU、カーボンリサイクルを含む)は、政策面でCO2貯留(CCS)と同等に扱われていない。CCUに対してもCCSと同等の政策的な対応が必要」と指摘した。

社会実装に向けて必要な政策として、小原執行役員は「カーボンリサイクルは鉱物化以外では(メタネーションなど)水素が絡むため、グリーン水素を安価に大量に調達できるようにすることだ。国内で水素を全てグリーン水素に置き換えるのは難しい。日本は海外から水素を輸入する必要があり、国際連携が重要となる」と述べた。また、米国立エネルギー技術研究所(NETL)のブライアン・J・アンダーソン所長は「(炭素含有量が小さい方が販売面で有利となるよう)政策主導で価格プレミアムを付ける必要がある」と指摘した。

(注1)経済産業省主催「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク 2021」(2021年10月4~8日)の1イベント。

(注2)2050年までにエネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出をネットゼロにするために、IEAが包括的に研究して発表(2021年5月)したレポート(2021年5月26日記事参照)。

(注3)排出されたCO2と水素を反応させた、カーボンリサイクルによる合成メタン。

(注4)CO2と水素から生産する燃料全体を指し、メタンやメタノールなどを指す。再生可能エネルギー由来の水素から生産した燃料e-fuelも含まれる。

(注5)CO2と水素からメタンを合成する手法のこと。

(古川祐)

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