欧州委、ポーランド憲法裁判所の判断に懸念、EU予算執行にも影響か

(EU、ポーランド)

ブリュッセル発

2021年10月12日

欧州委員会は10月7日、ポーランドにおけるEU法の優越性に関して深刻な懸念を表明する声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。これは、ポーランド憲法裁判所(憲法法廷)が、EU司法裁判所による同国の司法制度への介入はポーランド憲法の優越性の原則に違反すると判断したことを受けたものだ。今回の判断は、EU加盟国におけるEU法の優越性というEUの基礎をなす法秩序に対する挑戦と受け止められており、欧州委は、EU法が憲法を含む加盟国法に優越すること、EU司法裁判所の判決が加盟国裁判所を含む全ての加盟国当局を拘束することを、あらためて確認した。EUでは近年、ポーランド政府による司法の独立への介入が問題視されており、今回のポーランド憲法裁判所の判断により、EUとポーランドとの対立がさらに深刻化する恐れがあり、今後のEU予算のポーランドへの執行にも影響を及ぼしかねない。

ポーランドの与党である「法と正義」(PiS)は、2015年に政権を獲得して以来、司法制度改革を推し進めている。欧州委は、この司法制度改革は政府と議会による司法への介入で、EUの最も基本的な価値である法の支配を弱体化させるものとして、司法改革の見直しをポーランドに求めてきた。これまでに欧州委は、この司法改革における裁判官の退官年齢の引き下げや裁判官に対する新たな懲罰制度がEU法違反として、EU司法裁判所に義務不履行訴訟を4件提訴しており、このうち3件で欧州委の主張をおおむね認める判決が出されている。直近では、欧州委は2021年3月に懲罰制度をめぐり新たに提訴しており、EU司法裁判所は7月にポーランドに対して懲罰制度の一時停止などの暫定的措置を命じている。また欧州委は9月には、ポーランドがこの暫定的措置を履行していないとして、ポーランドに履行強制金を科すよう求める訴えを提起している(2021年9月17日記事参照)。こうした中で、ポーランド憲法裁判所がEU司法裁判所の判決を含むEU法の優越性を否定したとも受け取られかねない判断をしたことから、欧州委はポーランドに対して厳格な対応を取らざるを得ないとみられる。

ポーランドへのEU予算の執行が遅れる可能性も

今回の声明で欧州委は、EU法の一体性と統一的な適用を維持するために、EU条約で認められた手段の行使をちゅうちょしないとしている。こうした中で懸念されているのが、復興基金の中核予算である「復興レジリエンス・ファシリティ(RRF)」のポーランドに対する予算執行の遅れだ。欧州委は9月に、EU法の優越性に関するポーランド政府の対応によっては、RRFからの財政拠出を受けるための復興レジリエンス計画(復興計画)の承認に影響が出る可能性がある、と述べていた。現に既に多くの加盟国に対するRRFの予算執行が始まっているが、ポーランドは5月に復興計画を欧州委に提出したものの、執行の前提となる欧州委による復興計画の審査はまだ完了していない。また、現地報道によると、欧州委は、法の支配とEU予算の執行を関連付けるメカニズム(2020年12月15日記事参照)の発動も視野に入れているとされる。このメカニズムが発動された場合、RRFだけでなくEUの一般予算も執行停止の対象となることから、その影響はさらに広がる可能性もある。

(吉沼啓介)

(EU、ポーランド)

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