総選挙公約のモビリティー政策、EV普及や自動車走行速度制限が争点に

(ドイツ)

ベルリン発

2021年09月21日

ドイツでは、9月26日に連邦議会選挙(総選挙)が行われる。単独過半数を得られる政党が現れる見込みはなく、複数の政党による連立政権となることが確実な情勢で、連立与党入りする可能性があるのは、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)、社会民主党(SPD)、緑の党(Grünen)、自由民主党(FDP)だ(2021年9月17日記事参照)。4党が選挙公約に掲げている、主要産業の自動車とモビリティー(移動手段)に関する政策を比較する。

CDU/CSUは、電気自動車(EV)普及に欠かせない充電設備網の拡充方法として、新築するビルや駐車場への充電設備の併設を提唱。また、ディーゼル車の走行禁止と高速道路の速度制限導入には反対する。

SPDは緑の党と同じく、2030年までに国内で少なくとも1,500万台のバッテリー式電気自動車(BEV)を普及させるともに、環境保護と交通事故を減らすため高速道路の走行速度を時速130キロに制限するとしている。また、蓄電池の生産とリサイクルの分野でドイツを世界一にすると掲げる。

緑の党は、高速道路で時速130キロ、都市部などの一般道では同30キロの速度制限の導入を提唱。さらに、2030年(注1)から内燃機関搭載の新車の販売を禁止し、それまでにBEVの普及台数を1,500万台に拡大することを目指す。航空関連では、国内の鉄道網を整備することで、2030年までに国内の短距離航空路線を廃止する。

FDPは、走行速度制限の導入や内燃機関搭載車の禁止に反対だ。代わりに、モビリティー分野の技術とイノベーションを重視。また、充電設備の整備を掲げる一方で、BEV購入に有利な現在の補助金制度「環境ボーナス」(注2)に反対する。

ドイツ自動車工業会(VDA)は6月に、連邦議会選挙に向けた自動車産業界としての目標と要望を発表した。例えば、ドイツと欧州での充電設備網の速やかな拡張と、EVに対する社用車税・自動車税・特別減価償却など税制上の優遇措置や「環境ボーナス」などの現在の支援策の維持を求めている。また、ドイツと欧州の自動車産業の競争力とイノベーションを強化するため、蓄電池、水素、合成燃料、半導体、ソフトウエア、人工知能(AI)など、自動車産業の主要技術への投資の必要性を示す。さらに、気候中立達成のためのさまざまな規制導入によるコスト増を懸念し、内燃機関搭載車の販売禁止や硬直的な走行速度制限には反対している。

(注1)欧州委員会が7月14日に発表した環境対策政策パッケージ「Fit for 55」では、2035年以降は全ての新車がゼロエミッション車となり、ハイブリッド車を含めて内燃機関搭載車の生産を実質禁止する案となっているが(2021年7月16日記事参照)、緑の党の選挙公約ではこれを5年前倒し2030年としている。

(注2)BEV、PHEV、燃料電池車(FCEV)を新車で購入する際の補助金(2020年7月15日記事参照)。BEVとFCEVの購入補助額の方がPHEVの購入補助額より高い。

(ヴェンケ・リンダート)

(ドイツ)

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