メキシコ政府は中国とのCPTPP加盟交渉に慎重、北米経済圏に悪影響を及ぼすとの識者の声も

(メキシコ)

メキシコ発

2021年09月22日

メキシコ経済省は、中国政府が9月16日に環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)への加入を正式に申請(2021年9月17日記事参照)したことを受け、9月20日にツイッターの公式アカウント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで「CPTPP創設メンバーとして、中国からの申請に対して迅速に対応し、他の10カ国と協調して取り組む」と発表した。また、「CPTPPは、協定の理念を共有し、市場へのアクセスや、多岐にわたる分野において規定が求める高水準の要件を満たせる全ての国に開かれた協定だ」とも記載した。

元経済省アジア・オセアニア・多国間組織局長で、CPTPPの交渉に当たっていたロベルト・サパタ氏は「中国のCPTPP加盟が実現すれば、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)から米国が離脱することも考えられる」と指摘する(「レフォルマ」紙9月20日)。USMCAの第32.10条は、加盟国が「非市場経済国」(注1)と自由貿易協定(FTA)交渉を実施する際には、交渉開始の3カ月前までにその意向を他の加盟国に通知するとともに、当該FTAを発効させた場合、他の加盟2カ国が6カ月前の通知をもって本協定を終了させ、2国間協定に置き換えることを許容する、と定めている。カナダとメキシコはCPTPPの加盟国であるため、中国のCPTPP加盟が実現した場合には、USMCA加盟3カ国のうちカナダとメキシコの2カ国が「非市場経済国」とのFTAを発効させるかたちになる。USMCAの条文では、あくまで加盟3カ国のうち1カ国が「非市場経済国」とのFTAを発効させた場合に、当該1カ国をUSMCAから排除し、残り2カ国で協定を継続することが想定されている(注2)。それを踏まえても、米国がUSMCAから離脱する可能性は排除できない、というのがサパタ氏の見方だ。また、サパタ氏は「(中国のCPTPP加盟を認めるか否かの)議論と交渉は長期化する」とみており、「メキシコは、非常に複雑かつデリケートで、多面的な交渉を迫られる」と、メキシコが難しい立場に立たされることを指摘した。

米国は、メキシコにとって最大の貿易相手国だ。2020年のメキシコの輸出総額は81.2%が米国向けで、輸入総額の43.8%を米国が占める。一方、中国への輸出額は総額の1.9%に過ぎず、輸入額は米国に次いで2番目に大きいが、構成比は19.2%にとどまる。メキシコにとって、北米自由貿易圏の維持が最優先事項であることは明らかだが、近年は「新型コロナ禍」において医療用品などの供給や、ワクチンの提供を受けたことなどから中国との関係も深化しており、メキシコ政府は難しいかじ取りを迫られそうだ。

(注1)非市場経済国とは、USMCAの署名時点で、ある加盟国が貿易救済法の適用上で非市場経済国と決定しており、かつどの加盟国もFTAに署名していない国を指す(USMCA第32.10条1項)。メキシコは、貿易法(メキシコにおける貿易救済法)の枠組みでは明確に非市場経済国を特定していない〔個別のアンチダンピング調査の過程で中国を非市場経済(NME)国と決定してダンピングマージンを設定することが多い〕が、少なくとも米国は、中国の政府による経済統制や特定産業への補助金の存在から、NME(米国商務省国際貿易局NMEリスト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)としている。

(注2)この条項のほか、USMCA第34.6条では、他の加盟国への6カ月前の書面による通告のみで、理由を問わず一方的にUSMCAから離脱することが認められている。

(松本杏奈)

(メキシコ)

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