米有識者、中国のCPTPP加入申請に冷静な反応

(米国、中国、英国、オーストラリア)

ニューヨーク発

2021年09月21日

中国政府が9月16日に環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)への加入を正式に申請(2021年9月17日記事参照)したことに対して、米国の有識者はおおむね冷静な反応を示している(注1)。

オバマ政権でTPP交渉を担当したウェンディ・カトラー元米国通商代表部(USTR)次席代表代行は自身のツイッターで、「驚くことではない。中国は数カ月、CPTPP(加入)を『積極的に』検討してきた。ボールは今、質が高く市場志向型の既存協定を保つCPTPP加盟国側にある」との見方を示した。戦略国際問題研究所(CSIS)で中国を専門とするスコット・ケネディ上席研究員も「深刻に捉えるべきではない。CPTPP加入が中国を自由化させ、国有企業優遇を減らし、労働条件を向上させ、環境配慮型に進むよう圧力となることを期待する一方、中国はその逆方向に進んでおり、CPTPP加入はそれに変化をもたらすものではない」としている。大統領経済諮問委員会(CEA)でシニアエコノミストを務めたピーターソン国際経済研究所(PIIE)のチャド・バウン上席研究員は「中国がCPTPPに加入できるかを占う上で、中国の成績表について十分な理解が得られていない。地域的な包括的経済連携(RCEP)は確実に(加入が)安全圏の協定だが、CPTPPは明らかに少し手が届かないだろう。いずれにせよ、より多くの情報が必要だ」と評している(注2)。

カーネギー国際平和財団のアンキット・パンダ上席研究員は「中国は恐らく、すぐにはCPTPPには加入しない。他方で(米国、英国、オーストラリアの安全保障協力の新たな枠組みの)「AUKUS外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の発表があった翌日にCPTPP加入申請があったことは、ワシントンと北京がアジアにおける「競争」を思考する過程で、亀裂状態が続いていることを示している」と、米中摩擦と関連付けて分析している。米メディアも、中国の動きはAUKUSに対抗したものと報じている。3カ国はインド太平洋地域の平和と安定に向けて協力するとしており、最初の取り組みとして、米英がオーストラリア軍による原子力潜水艦の取得を支援する。「ウォールストリート・ジャーナル」紙は、中国のCPTPP加入申請について「そのタイミングは、中国の指導層が米国の同盟関連の動きに対して『目には目を』の対応を狙ったことを示唆している」と評価している(同紙電子版9月16日)。

ヘリテージ財団のトーリ・スミス上席政策アナリストは、米国がカナダとメキシコと締結している米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の第32.10条が問題になる可能性を指摘している(注3)。米経済誌ブルームバーグ(9月20日)は今後のシナリオとして、(1)CPTPP加盟国による中国加入の拒否、(2)加入プロセスが開始されても、2~3年で交渉が行き詰まる、(3)中国が基準引き下げのために他国を説得、(4)中国が(国内経済の)構造改革を行った後に加入という4つの道が想定されるとしている。

(注1)中国のCPTPP加入申請に対するバイデン政権の反応については2021年9月21日記事参照

(注2)PIIEは2020年6月のレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、中国のCPTPP加入の可能性に言及している。TPP規律を受け入れる場合、中国は前例のない国内改革を通じて、国有企業やデータ流通・ローカライゼーション要求、労働義務、補助金のルールを満たす必要があると指摘。

(注3)同条項は、USMCA加盟国が非市場経済国と自由貿易協定(FTA)を発効させた場合、残る加盟国はUSMCAを終了させ、2国間FTAに切り替えることが可能と規定している。スミス氏の詳細な分析は、ヘリテージ財団が2019年に発表したレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。

(磯部真一、藪恭兵)

(米国、中国、英国、オーストラリア)

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