人手不足の背景にはチリ政府の手厚い新型コロナ関連支援策も

(チリ)

サンティアゴ発

2021年08月26日

チリ中央銀行が8月9日に発表した国内の求人数を示すインターネット求人指数(注)によると、2021年7月の同指数は101.7となり、2015年3月以来の高値を記録した(添付資料図参照)。新型コロナウイルス感染の第1波が国内を襲った2020年4~7月の同指数は20台にまで減少していたものの、2021年の第2四半期以降は「新型コロナ禍」以前の水準を上回る動きをみせている。

求人数が増えている一方、8月14日付の「ラ・テルセラ」紙によると、豊富な求人数に対して求職者数は不足しているという。つまり、有効求人倍率が上昇しているということだ(注2)。同紙はその要因として、経済活動の再開、外国人労働者の減少、新型コロナウイルスの感染リスクによる就業忌避を挙げているほか、就職を放棄し政府支給の補助金のみで生活する層が一定割合存在することを「新たな問題」として挙げている。

人手不足が深刻な職種は、主に観光、通信、建設業、農業で、特に農業では、通年収穫期に短期外国人労働者を雇うことで農作物の収穫が行われていたが、「新型コロナ禍」の入国制限によって外国人労働者の人員確保が難しく、賃金を通常より20~50%上乗せして求人を出している企業もあるという。全国農業協会(SNA)のクリスティアン・アジェンデ代表は「人手不足により収穫期の作業が間に合わず、多くの農作物を失う可能性がある」と警告する。

チリ政府が行っている新型コロナウイルス関連の支援策には、家庭収入保護(IFE)、最低所得保証、中産階級への補助金、中小企業への補助金など多岐にわたっており、中でもIFEは新型コロナウイルスの影響に対する支援策の要になっている。IFEは、政府が定めた要件を満たす全家庭が受給対象となり、家族構成によって、17万7,000~88万7,000ペソ(約2万5,000~12万4,000円、1ペソ=約0.14円)が毎月支払われる仕組みだ。政府発表によれば、2020年5月~2021年7月の間のIFEの支給額累計は2兆2,400億ペソに上る。生産商工連合(CPC)のフアン・スティル代表が「仕事を探すよりも、政府の補助金受給を好む人たちがいる」とコメントしているように(「CNN CHILE」電子版8月19日)、政府による「手厚い」補助金支給が求職意欲を妨げ、企業らの人員確保を困難にしている状況がうかがえる。

こういった状況下において、チリ政府は8月10日、2021年12月までのIFEの支給期間延長を発表した。多くの受給者が12月まで支給を受けるとみられ、企業らは今後も人手不足や人件費高騰などの負担を強いられることが予想される。

(注1)主要な求人サイトで公開された求人数の平均によって算出され、2015年1月を100とした場合の数値。

(注2)チリでは、公式統計としての有効求人倍率は発表されていない。

(岡戸美澪)

(チリ)

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