超党派インフラ投資計画が上院通過、5年間で総額1兆ドル、新規支出は5,500億ドル

(米国)

ニューヨーク発

2021年08月11日

米国議会上院は8月10日、超党派のインフラ投資計画法案(2021年7月30日記事参照)を賛成多数で可決した。8月5日には議会予算局(CBO)より、同法案の成立によって今後10年間で約2,560億ドルの財政赤字が拡大するとの分析が公表され(2021年8月6日記事参照)、その採決が危ぶまれたが、結果的には賛成69、反対30での可決となった。

同計画の規模は今後5年間で約1兆ドル、既に予算配分済みの支出を除いた新規支出は約5,500億ドルとなっており、道路や橋、EV(電気自動車)インフラ整備など輸送部門に2,836億ドル、ブロードバンド網や電力グリッド網整備など非輸送部門に2,655億ドルを充てるとしている。また、CBOから財政赤字拡大の指摘があった財源については、未使用の失業保険給付金の活用、2020年の新型コロナウイルス対策の余剰金などを充てるとしているが、経済底上げによる増収見込み分を除くと、約840億ドルの財源がいまだ不透明な状況になっている(添付資料表参照)。なお、当初の計画に含まれていた歳入庁(IRS)の徴税強化は削除されているほか、法人税増税などの増税措置も含まれていない。

同法案の上院通過を受けて、ジョー・バイデン大統領は「この法案を支持した共和党員にとっては容易な決断ではなかったと思う。勇気を示してくれたことに個人的に感謝したい」と述べるとともに、「法案は今後、下院に送られるが、承認を得るのを楽しみにしている。われわれは、次の議題である(3兆5,000億ドル規模の)支出計画に取り組まなければならない」と述べている。

同法案の審議は下院に移るが、現在は休会中のため、審議開始は9月からとなる見込みだ。上院では、民主党が発表した3兆5,000億ドルの支出計画(2021年7月26日記事参照)の審議が模索されており、民主党上院院内総務のチャック・シューマー議員(ニューヨーク州)は8月9日、各委員会が同計画を達成するための法案を作成することが目標だ、と民主党議員に伝えた。同計画は、バイデン政権が公表した米国家族計画(2021年4月30日記事参照)にある人的投資のほか、超党派のインフラ投資計画に含まれなかった気候変動対策などが柱になっているが、財源には法人税増や富裕層増税などを充てるとしており、共和党からの協力の見込みは薄い。そのため、「財政調整措置」(注)を利用して民主党単独での採決を図るとみられる。また、上院の勢力は両党で拮抗(きっこう)しているため、増税などに慎重な民主党内の穏健派議員など、民主党内の調整も求められ、審議の難航が見込まれている。加えて、2021年8月から連邦債務の上限が復活しており、財務省やCBOはデフォルト回避のため、議会に早急に対応を取るよう要請しており(2021年7月26日記事参照)、その対応も急がれる。上院では休会期間を一部返上して対応する構えだが、休会後の下院もにらみつつ、山積した案件を新会計年度が始まる10月までに調整できるか、上院では引き続き窮屈な審議日程が続く見込みだ。

(注)上院では通常、法案可決にはフィリバスター(議事妨害)を抑え込むため、クローチャー(討論終結)決議に必要な60票の賛成が必要となる。ただし、歳出・歳入・財政赤字の変更に関する法案については、財政調整措置(リコンシリエーション)を利用し、過半数での採決が可能。賛否が50票同数の場合、議長を務める副大統領の1票で採決となる。

(宮野 慶太)

(米国)

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