欧州委、2021年のEUの成長率見通しを大幅に上方修正
(EU)
ブリュッセル発
2021年07月08日
欧州委員会は7月7日、夏季経済予測(中間予測)を発表した(注)。新型コロナウイルスワクチンの接種加速により感染状況が改善し、経済の再開が進んでいることから、2021年のEU27カ国とユーロ圏の実質GDP成長率をともに4.8%と予測し、前回5月の春季予測(2021年5月18日記事参照)からEUは0.6ポイント、ユーロ圏は0.5ポイント上方修正した(添付資料表参照)。欧州委のパオロ・ジェンティローニ委員(経済担当)によると、前回予測から0.6ポイントの上方修正は、過去10年以上でも例のない大幅な改善となった。
2021年に入り、欧州経済にとって明るい要素が多くみられる。第1四半期(1~3月)のEUの成長率はマイナス0.1%に踏みとどまり、春季予測時点の予測値マイナス0.4%を実績が上回り、マイナス成長の加盟国数は11カ国と半数以下だった。欧州委は、企業と家計がそれぞれ新型コロナ危機下の各種制限に適応することができたとし、企業の中ではとりわけサービス業が経済活動再開の恩恵を受けているとの見方を示した。2020年には、宿泊者の延べ数が前年比で半減するなど壊滅的な打撃を受けた観光業も、ようやく2021年5月から回復の兆候がみられると指摘した。製造業に関しては、自動車産業での半導体の不足など、一部の業界でサプライチェーンの混乱が足を引っ張ったことが一層力強い回復を妨げたと評価した。
経済回復の速度は加盟国間で差異目立つ
今後の見通しについては、7月6日時点で、EU全体で成人人口の45%が必要回数の接種を完了したワクチンの普及が順調に進めば、一層の経済活動再開が期待されるものの、感染力が強いデルタ変異株の流行拡大の兆候もみられることから、成長予測を取り巻くリスクは上振れ・下振れ要因が均衡していると総括した。
新型コロナ危機以前の経済水準に戻る時期については、EU全体とユーロ圏全体では2021年第4四半期(10~12月)と予測している。しかし、危機以前の水準への回復の速度は加盟国によって差がある。例えば、ポーランドは2021年第2四半期(4~6月)、ドイツとオランダは同第3四半期(7~9月)と、比較的早いタイミングでの回復が見込まれるのに対し、スペインとイタリアは2022年第3四半期になると予測した。
その他、今回の予測では、石油価格や、金属などコモディティー価格の上昇を背景に、物価上昇率が高まっている点に繰り返し言及している。EUの2021年の消費者物価上昇率は2.2%(前回予測から0.3ポイント増)、2022年は1.6%(同0.1ポイント増)と予測。企業によっては長引く危機状況で疲弊し、物価上昇を吸収する財務的余力を失っていることから、さらなるインフレがリスク要因となる可能性も指摘している。
(注)中間経済予測では、実質GDP成長率と消費者物価上昇率のみ発表。欧州委員会は春と秋に、GDPの各構成要素や失業率、財政収支の対GDP比などを含む包括的な経済予測を発表し、夏と冬に中間経済予測を発表する。
(安田啓)
(EU)
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