社会貢献や事業提携について議論、オンライン開催の米小売業界大型イベント

(米国)

ニューヨーク発

2021年07月02日

全米小売業協会(NRF)は6月21~25日、小売業界の専門家が業界の現状や今後の課題について議論するオンラインイベント「リテール・コンバージ」を開催した(2021年7月2日記事参照)。同イベントは9つの分野(注1)に焦点を当てて議論が行われたが、米国の人種問題やサステナビリティなど、企業の社会的責任をテーマとするセッションも、分野横断的に取り上げられている。

英国飲料メーカーのディアジアで人事担当の執行副社長(executive vice president)を務めるローラ・ワット氏は、企業戦略/リーダーシップに関するセッションで、消費者を引き付けるのは、利益を重視する企業よりも、社会貢献に積極的に取り組む企業や、経営者が人種や性的少数者(LGBT)などの多様性を認め、組織全体の一体化を目指す「インクルーシブ(包括的)」な企業だと指摘した。また、同氏は「企業が長期的に成長するためには、ESG(注2)への取り組みが重要との見方が急速に広まっており、多くの組織は社会にどのような良いインパクトを与えているかによって評価される時代に変化しつつある」と述べた。

そのほか、スタートアップ企業などがテーマに沿ったディスカッションを行うトークセッションでは、大手小売企業とスタートアップを中心としたD2C(注3)企業の事業提携の可能性について議論された。全米主要都市でポップアップストア(注4)の展開を支援する、ザ・ライオネスク・グループのメリッサ・ゴンザレスCEO(最高経営責任者)は、米国高級百貨店ノードストロームと提携し、自宅で個人に合わせたトレーニングプログラムを構築することができるスマート・フィットネスマシンを提供するトーナル(Tonal)の製品を、買い物客が体験できるスペースをノードストロームの店舗内に設けた事例を紹介した。同氏は「オンライン販売を中心とするD2Cは、大企業と提携し実店舗を展開することで、効率的かつ戦略的な方法でブランドの認知度を高めることができる。また大企業も、新しいタイプの商品を取り上げ、新たな顧客体験や顧客価値を提供することが差別化のカギになることから、両者が互いに学び合える良好な関係を構築することができる」と述べた。

市場調査会社イーマーケターによると、D2C企業の2021年の米国内の電子商取引(EC)売上高は前年比19.2%増の211億5,000万ドルに達すると予測されている。特に客足が低迷している百貨店などの小売店にとって、D2Cとの提携は、ミレニアル世代などの若年層の集客につながることが期待される。

(注1)(1)商品ロスの回避/資産管理/セキュリティ、(2)リテールテック/IT、(3)サプライチェーン/ロジスティクス/流通、(4)サイバーセキュリティ/データプライバシー、(5)マーケティング/データ分析/販売計画、(6)顧客体験、(7)Eコマース/デジタル/モバイル、(8)店舗運営、(9)企業戦略/リーダーシップ、の9分野。

(注2)環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字を取ったもの。これら3つの取り組みに配慮して事業活動を推進しているかどうかは、企業評価を測る1つの指標として使われている。

(注3)Direct to consumer(D2C)の略で、メーカーが製造から顧客へ直接商品を販売するビジネスモデルのことを指す。

(注4)空き店舗などを利用して、短期的に出店する形態。

(樫葉さくら)

(米国)

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