業界団体、マイナスの影響を懸念しデューデリジェンス法の下院可決を批判

(ドイツ)

ミュンヘン発

2021年06月17日

「サプライチェーンにおける企業のデューデリジェンスに関する法律」(以下、デューデリジェンス法)が6月11日、ドイツ連邦議会(下院)で可決された(2021年6月17日記事参照)。同法は6月25日に連邦参議院(上院)で審議されて成立し、2023年1月1日に施行の見込み。

連邦議会での可決を受け、ドイツの業界団体は、同法を非難する声明を相次いで発表している。ドイツ機械工業連盟(VDMA)のティロ・ブロートマン事務局長は2021年6月11日、「デューデリジェンス法は大失政だ」と批判外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。デューデリジェンス法の義務違反から民事責任が生じないことが法案修正により明文化された点は認めながらも、「修正後でも本質は全く変わっていない」とした。同法は、企業に不要な事務作業を強いるものであるとともに、企業が注意義務違反をしていなくても、法的リスク回避のため、最悪の場合、企業は市場から撤退することになりかねない、と指摘した。その上で、VDMAとしては連邦政府に対し、一方的に負担を企業に強いることがない、人権を真に保護するルールを、EUレベルで策定することに期待するとした。

ドイツ卸・貿易業協会(BGA)のアントン・ベルナー会長も同11日、「デューデリジェンス法の可決は大変遺憾」とコメントPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、人権状況の改善を図る本来の目的にかなっていないばかりか、とりわけ中小企業に負担を強いるものになっている、とした。今回のデューデリジェンス法の失敗は、企業立地としてのドイツ、ドイツ企業、そしてドイツ企業の海外におけるパートナー企業が影響を受けることになるとした。

企業の4割以上が影響ありと回答

フォルクスワーゲン(VW)グループのムラート・アクセル取締役(調達担当)は、ドイツ経済紙「ハンデルスブラット」(2021年6月10日)のインタビューの中でデューデリジェンス法について問われ、VWグループは既にかなり前から自発的に取り組んでおり、社会規範などに関して同社が定める条件を満たしていない企業は、VWグループから受注できないかたちになっているため、同法の影響は受けないとしている。

一方、ifo経済研究所が6月11日に発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしたアンケート結果(注)によると、デューデリジェンス法によって、工業部門の企業の43%が事務作業や書類作成業務によるマイナスの影響を予測しているという。また回答企業の多くが、同法によって、製品価格の上昇や大企業のサプライヤーとしての役割により間接的に影響を受けるとしたほか、法的リスクや実効性、サプライヤーの効果的な管理方法などを懸念していた。ドイツ各地にある商工会議所も、デューデリジェンス法の概要や対応方法などを説明するオンラインセミナーを開催するなど、主に中小企業に対する情報提供を進めている。

(注)5月の景況感アンケート調査に合わせ、約7,000社に対しデューデリジェンス法の影響を聞いたもの。

(高塚一)

(ドイツ)

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