サプライチェーンにおける企業の人権デューデリジェンスに関する法律が連邦議会で可決
(ドイツ)
ベルリン発
2021年06月17日
ドイツ連邦議会(下院)は6月11日、一定規模以上の企業に、自社および取引先企業が人権を侵害またはリスクにさらしていないかなどの確認を求める「デューデリジェンス法案」(注1)を可決した。
企業によるサプライチェーンの人権配慮は、連邦政府が2016年に策定した「ビジネスと人権に関する国家行動計画」(National Action Plan)(注2)が、人権に関するリスクを最小化するための適切な管理手法を開発・適用することを企業に求めていたことが直接の嚆矢(こうし)だった。その後の連邦政府の調査により、このような人権デューデリジェンスを自主的に実施していた企業が少数(2020年7月公表の調査では13~17%)だったと明らかになったことを受け、法的規制の導入に踏み切ったもの(2021年6月11日付地域・分析レポート参照)。
採決では、野党の「ドイツのための選択肢(AfD)」や自由民主党(FDP)が反対、与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)(ただし10人が造反)および社会民主党(SPD)、野党の緑の党が賛成した。当初の政府案(2021年3月10日記事参照)に主として以下の修正を行うかたちで可決された。
- 適用対象に、外国企業のドイツ国内支社・子会社であって、当該支社・子会社のドイツ国内での被雇用者が3,000人以上(2024年1月1日からは1,000人以上)であるものを追加。
- 同法律の義務違反からは民事責任は生じないことの明文化(ただし、この法律とは関係なく生じた民事責任を制限するものではない)。
- 特定の国が同法律に規定の人権などに関する条約のいずれかを未批准、または国内法化未実施という事実のみで、企業が当該国の企業との取引停止義務を負うわけではないことを明文化。
- 企業が策定する人権などの侵害についての苦情処理手続きの規則は、明文化し公開すること。
同法案については、十分な人権デューデリジェンスを実施するための財務的・人的基盤の弱い、中堅企業への影響が特に懸念されている。ドイツ産業連盟(BDI)のヨアヒム・ラング事務局長は同日、「政治が不出来な法律で良い目標を達成しようとしていることは残念。今回の規制は、特に中堅企業にとって大きな課題となるだろうが、問題が起きている現場の状況はほとんど変わらないだろう。定義があいまいな義務に違反した場合に科される罰則は不釣り合いに厳しく、企業のリスクは予測不能だ」と批判した。
法案は今後、連邦参議院(上院)で承認されて6月中に成立、2023年1月1日に施行の見込み。
(注1)同法案の通称は、閣議決定時点では、Lieferkettengesetz(Lieferketteはサプライチェーンの意)と報道されることが多かったが、現在は主にSorgfaltspflichtengesetz(Sorgfaltspflihtは注意義務、デューデリジェンスの意)が使用されるようになっているため、「デューデリジェンス法」で統一した。なお、正式名称は「サプライチェーンにおける企業のデューデリジェンスに関する法律」。
(注2)2011年の国連人権理事会で支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」では、国連加盟各国にビジネスと人権に関する行動計画を策定することを求めていたため、連邦政府も国家行動計画を策定した。
(田中将吾)
(ドイツ)
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