温室効果ガスの新排出権取引制度(UK-ETS)による排出枠取引が開始

(英国、EU)

ロンドン発

2021年05月25日

英国独自の温室効果ガス排出権取引制度(UK-ETS)による英国排出枠(UKA、注1)の取引が5月19日から開始された。英国は、EU離脱(ブレグジット)の移行期間終了に伴い、欧州排出権取引制度(EU−ETS)からも離脱し、2021年1月1日からUK-ETSを導入しており、今回が新制度の下で初めての排出枠取引となった。

UK-ETSは、政府がブレグジットの移行期間終了(20201231日)後のEU−ETSに代わる制度として、2020年6月に公表した(2020年6月8日記事参照)。UK-ETSの当面の排出枠は、EU-ETSで英国に割り当てられていた2021~2030年の想定排出枠から5%引き下げられている。鉄鋼、発電、航空部門などのエネルギー集約型企業や施設に対し、温室効果ガス(GHG)の排出枠を設定し、余剰分や不足分が市場で取引される。また、同制度は、2020年12月に英国政府が発表したエネルギー白書でも導入することが示されており(2020年12月18日記事参照)、2050年のGHG純排出ゼロの目標達成に大きく貢献するものとされている。

UK-ETSオークションを主催するICE Futures Europe(ICE)によると、5月19日のオークションでは14社が落札し、UKA1枠当たりのGHGの取引価格は二酸化炭素(CO2)換算で1トン当たり43.99ポンド(約6,770円、1ポンド=約154円)となり、予定されていた約605万のUKA全てが売却された。同オークションは、同日から2週間ごとに実施され、2021年は合計8,300万のUKAが取引される。これは、UK-ETSの2021年の総排出枠である約1億5,600万のUKAの半分以上に相当する。

また、同日に開始されたUKA先物取引(Futures Contract)では、指標価格となる2021年12月分のUKA1枠当たりのGHGがCO2換算で1トン当たり50.23ポンドで取引が始まり、45.25ポンドで12月21日分の取引を終了した。さらに、5月21日からはUKA1日先物(Daily Futures)が開始されている。これらの排出枠は、市場参加者が将来の指定した日に排出枠を受け渡す契約を取引することができる。また、EU−ETS同様に、カーボンリーケージのリスク(注2)と競争力への影響に対処するために、2021年は約4,000万の排出枠の無償割当がある。

なお、UK-ETSオークションの最低価格(ARP)は、暫定値として、UKA当たり22ポンドとされている。一方で、取引価格が高騰した場合は、「コスト抑制メカニズム(CCM)」により、英国政府が介入する。

北アイルランドは、EU離脱協定のアイルランド・北アイルランド議定書に基づき、引き続きEU−ETSが適用されている。また、英EU通商・協力協定(TCA)では、英国とEUは双方の排出権取引制度(ETS)の連携を検討することとしている。

(注1)1排出枠当たりの温室効果ガス(GHG)排出量は1トン(CO2換算)。

(注2)気候政策に関するコストを理由に、企業がより排出規制が緩い他国に生産を移転するリスク。

(宮口祐貴)

(英国、EU)

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