アルゼンチン政府、牛肉輸出を30日間停止、農業団体がストへ

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2021年05月20日

アルゼンチン政府は5月17日、国内の食品価格上昇とインフレを抑制する目的で、牛肉の輸出を30日間停止すると発表した。

アルベルト・フェルナンデス大統領とマティアス・クルファス工業生産・開発相は「国内市場において牛肉価格の上昇が続いていることから、連邦政府は食肉産業の体制を整え、投機的な取引を制限し、輸出におけるトレーサビリティの改善および脱税の回避などを目的として緊急措置を実施する。これらの措置が実行に移るまでの間、牛肉輸出を30日間停止する」と、今回の決定を業界団体の代表者らに直接伝えた。また、「今回の措置の効果がみられた場合、輸出停止期間を短縮すると同時に、進行中の取引を例外として認める可能性もある」と説明した。

アルゼンチン政府は、インフレの加速を抑制するためにさまざまな価格統制策を相次いで打ち出し、特に牛肉に関しては、期間限定で一部部位の安価な販売を義務付け、さらに牛肉輸出の監視を強化するなどしてきたが、効果は出ていない(2021年5月10日記事参照)。フェルナンデス大統領は「牛肉の輸出税の引き上げ(現在9%)や輸出枠の設定も検討したが、それでは国内市場を整えるには不十分。2015年から2019年にかけて(牛肉)セクターが完全に開放されたが、牛の飼養数や屠畜数は増加せず、生産者すなわち権力者だけが優位な状況にあった。増加したのは国内価格だけだ」と、ラジオのインタビューを通じて今回の輸出停止措置を正当化した。

アルゼンチンは、2006年に同じような背景と目的で牛肉輸出制限措置を導入している。当時のネストル・キルチネル政権下では「180日間の時限的措置」として発表したが、結果的に、約10年にわたって輸出を規制した。専門家などによれば、当時の規制の影響により100社以上の食肉加工会社が破綻、牛の飼養頭数は20%減少、約1万人の雇用が失われた。牛肉輸出は、2005年の約77万トンから2015年には20万トン以下まで減少し(添付資料図参照)、アルゼンチンは世界の牛肉輸出国3位の座から転落し、上位10カ国にもランクインしなくなった(現地紙「ラ・ナシオン」「エル・クロニスタ」電子版5月18日)。

2020年のアルゼンチンの牛肉生産量は316万8,000トンで、2017年から拡大傾向にある。同様に、2016年以降は輸出量も大幅な増加に転じ、2020年の輸出量は90万3,000トンと過去最高を記録した。牛肉輸出量全体の75%は中国に向けられている。

輸出が伸びる一方で、1980年代に約80キロだった国内の1人当たりの年間牛肉消費量は、2020年には50.2キロと過去最低になった。2021年も国内消費量は減少しており、3月時点で45キロを下回り、牛肉の価格上昇と厳しい景気後退の現状を反映している。

5月18日付の現地紙「エル・クロニスタ」によれば、国内の農業関連団体は政府の決定に強く反対し、5月20日から28日まで9日間にわたって牛肉関連取引のストライキを実施すると発表した。2008年当時、保護主義的な政策を敷いていたクリスティーナ・フェルナンデス政権下(現在、同氏は副大統領)と農業団体が対立した状況に酷似している、と農業関係者が警鐘を鳴らしている。

(山木シルビア)

(アルゼンチン)

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