複数の労組が共同でUSMCA労働分野緊急紛争解決メカニズムによる初の提訴

(メキシコ、米国)

メキシコ発

2021年05月12日

北米最大規模の労組の米国労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)と、米国とカナダのサービス産業労組の国際サービス従業員労働組合(SEIU)、米国の非営利市民団体のパブリックシチズン、メキシコの新興独立系労組の全国工業サービス労働者独立組合20/32運動(SNITIS)は5月10日、メキシコ北東部タマウリパス州の国境都市マタモロス市のトリドネックス(Tridonex)での労働者権利侵害について、共同で米国・カナダ・メキシコ協定(USMCA)が定める「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRLM)」に基づく初の提訴を行ったと発表した(AFL-CIOプレスリリース5月10日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ただし、メキシコのタティアナ・クルティエール経済相は、10日時点で米国政府から本件についての正式な通知はないと主要紙の取材に語っている。

USMCAの紛争解決の章(第31章)の別添31-A(米国-メキシコ)と別添31-B(カナダ-メキシコ)は、労働者の結社の自由と団体交渉権に関する権利侵害について、特定事業所を対象とした紛争解決メカニズムが存在する。同メカニズムを通じて特定事業所での労働者の権利侵害が確認された場合、当該事業所から提訴国に輸出する産品に対する特恵関税の否認や当該事業所への制裁金賦課などが行われる。第31章の本体の規定に基づく通常の国対国の紛争解決プロセスと比べると、RRLMでは迅速に審査が行われ、提訴から制裁の賦課(権利侵害の是正)までおおむね6カ月以内で完了する(添付資料表参照)。原則として、結社の自由と団体交渉権の侵害のみが対象だが、国対国の場合とは異なり、パネル設置要件として権利侵害が繰り返される必要はなく、また、域内貿易・投資への悪影響が立証される必要もないため、メキシコの連邦労働法改正(2019年5月7日記事参照)の効果的な施行に目を光らせる米国政府の提訴によって、特定の事業所に対して速やかに制裁措置が課される恐れがあるとして、メキシコ経済界はUSMCA発効前から警戒を強めていた。

新興労組による代表権の取得を阻害したと提訴

今回の提訴の理由としてAFL-CIOなどは、米国フィラデルフィアに本社がある補修用自動車部品製造カードン・インダストリー(Cardone Industries)の子会社トリドネックスが、同社の労働者がSNITISに加入し、雇用主との間で新たな労働協約を締結するための代表権を取得するプロセスを阻害し、SNITISを支持する600人の従業員が不当に解雇されたとしている。SNITISは急進的な新興労組として知られており、2019年初に20%の賃上げと3万2,000ペソ(約17万2,800円、1ペソ=約5.4円)のボーナス支給を求めたストライキ(20/32運動)をマタモロス市で展開し、同市の約50社の工場を操業停止に追い込んだ。当時展開されたストライキの中には、合法的なプロセスを踏んでいない不当ストも多かったと報じられている。

(中畑貴雄)

(メキシコ、米国)

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