440社超の金融サービス事業者がEUに一部事業移転、在英金融機関数も増加傾向

(英国、EU)

ロンドン発

2021年04月20日

金融コンサルティング会社ニュー・フィナンシャルは4月15日、英国のEU離脱(ブレグジット)が金融サービス分野に与えた影響に関する調査レポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表。同分野事業者の拠点や資産のEUへの移転状況、将来的見通しなどについて報告した。

レポートよると、英国の金融サービス事業者のうち、EU側に事業の一部や人員を移転、あるいは新拠点を設立した企業は441社に上る。また、在英の大手銀行や投資銀行などが英国に保有する総資産の10%弱に相当する9,000億ポンド(約135兆9,000億円、1ポンド=約151円)余りの資産をEU側に移転済み、もしくは移転させている最中と推計した。さらに、保険会社や資産運用会社も1,000億ポンド超の資産を移転させたとしている。

英国からの移転先として最も人気が高かった都市はダブリンで、135社が選択。次いで、パリが102社を集め、ルクセンブルク95社、フランクフルト63社と続いた(添付資料図1参照)。ダブリンを選択した要因としては、英語圏であることや専門性の高さ、英国金融セクターとの密接な関係、居住環境の良さなどが挙げられるとした。特に資産運用会社の支持を集めており、同業種の調査対象企業の4割近くがダブリンを主要拠点として選択した。

在英金融機関のEU流出は、ブレグジットに伴う「単一パスポート」の喪失により、EU域内の顧客に対して金融サービス提供が原則として不可能となったことによる。英国政府は「同等性」の認定をEU側から受けることで一定の金融サービス確保を目指しているものの、取り組みは同分野での規制協力に関する覚書の締結や、「英・EU共同金融規制フォーラム」の新設にとどまっている(2021年4月1日記事参照)。同等性に関しては、EU側が慎重な姿勢を崩していないことから、さらなる時間を要する見込みだ。今回のレポートでは、ロンドンの金融街シティについて、その欧州金融の中心としての地位は今なお健在としつつも、長期的には他の欧州都市が主導権を握る可能性も示唆している。

英国からEUへの事業の一部機能や人員、資産の流出が注目を集めているものの、実際には在英金融機関の数は増加している。イングランド銀行のデータによると、2015年には348社だった在英金融機関は、2020年には373社となっている(添付資料図2参照)。「単一パスポート」の喪失により、EUの金融機関も英国での事業継続のため在英拠点が必要となるためで、英国の金融コンサルティング企業Bovillは、EUの1,000社超の金融サービス事業者が今後、英国に新たな拠点を設立する可能性があると予測している(2021年2月26日記事参照)。

(尾崎翔太)

(英国、EU)

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