1,000社超のEU金融サービス事業者が英国に新たな拠点設置の可能性

(英国)

ロンドン発

2021年02月26日

EU内にある1,000社を超える金融サービス事業者が、英国に新たな拠点を設立する可能性があると、英国の金融規制関連コンサルティング企業のBovillが2021年2月21日に発表した。金融サービス業は、英国のEU離脱(ブレグジット)により、これまで利用していた「単一パスポート制度」が失効、英・EU通商・協力協定の中でも、一部代替措置として検討されていた「同等性」が含まれていない状況にあった(2021年1月7日記事参照)。現在、2021年3月末までに金融サービス面の相互協力に関する覚書締結を目指しているものの、依然として不透明な状況が続いている。

同社の別のレポート(2020年1月20日発表)によると、2019年10月までに英国金融行為規制機構(FCA)に対して、EU内の金融サービス事業者からの「暫定許可制度(TPR)(注)」申請数は1,441件に上り、うち83%の企業が英国内に拠点を持っていないという。金融面での協力交渉が不調に終わった場合、これら1,000社超の企業は英国で営業を継続するために、新たに英国に拠点を設立する必要性に迫られることを示唆している。アイルランド企業からの申請が最も多く、フランス、キプロス、ドイツと続く(添付資料図参照)。

これまでは、英国からEUへの人材および資産の流出を招くことが注目されてきた。コンサルタント会社アーンスト・アンド・ヤングは、2020年9月までに約7,500以上の金融サービス業の雇用および1兆2,000億ポンド(約180兆円、1ポンド=約150円)余りの資産が英国からEUに流出したとの統計を示している。また、2021年1月における平均株式取引高で、アムステルダムがロンドンを抜き、欧州トップとなった。アムステルダムは1日当たり92億ユーロとなり、2020年12月から4倍以上に急増した一方、ロンドンは86億ユーロと、12月から約4割減になった。大手取引所のCBOEヨーロッパのデータを基に、ブルームバーグなどが報じた(2月11日)。

これを受け、イングランド銀行(中央銀行)のアンドリュー・ベイリー総裁は、EUの同等性に関する姿勢に対し、市場の分断化につながるものと懐疑的な見方を示している(「フィナンシャルタイムズ」紙2月10日)。

そんな中、Bovillは、同社の調査に基づき、多くの欧州企業が英国を引き続き、金融サービスのハブ拠点として見ていることを明確に表している、との見解を示した。英国とスイスは2月3日、相互の同等性認定に合意(2021年2月5日記事参照)し、スイスの株式売買がロンドン市場に回帰することから、欧州証券取引所トップの座を再び取り戻すものとみられている。

(注)これまで保有していた「単一パスポート」に基づき、英国規制当局に対する権利継続意向の通知など各条件の下で、移行期間の終了後、英国で正式な認可を取得するまで間、原則として最長3年間英国で金融サービス事業を継続できるようにする暫定措置。

(尾崎翔太)

(英国)

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