米USTR、バイデン政権発足後初の通商政策方針を発表、2021年の通商課題

(米国)

ニューヨーク発

2021年03月03日

米国通商代表部(USTR)は3月1日、「2021年の通商政策課題と2020年の年次報告」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを議会に提出した。ジョー・バイデン大統領の政権発足後、初の報告(注)となる。新型コロナウイルス対応や国内経済の再建を優先しつつ、労働者の保護や気候変動問題への対応を通商政策の軸に置く姿勢を打ち出している。

米労働者の競争障壁となる強制労働を問題視、企業にも責任求める

USTRは、バイデン政権が「労働者中心の通商政策」を掲げ、賃金格差の是正や労働組合の組織率向上の観点から、これまでの政策を見直すと報告した。見直しの一環として、バイデン大統領が就任前に示した基本方針(2020年11月17日記事参照)と同様に、通商交渉などでの労働ルールの検討時に労働者の同席を約束し、労働者の権利を保護し、経済安全保障を高める協定を結ぶとしている。

また、他国による労働ルール違反が米労働者の競争力低下をもたらしているとの認識から、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)における工場単位の調査を政府主導で開始することも視野に、労働ルールの取り締まりを一層強化する意向を示した。労働者を競争上不利に追いやる為替操作についても、他国に改善の圧力をかけるよう、財務省、商務省と連携して対処する。

環境面では、全世界の温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにするという目標に向けて、環境義務に違反する国で生産される環境負荷の大きい製品に対する「炭素調整措置」の導入を検討する。また、漁業権の管理や違法な森林伐採、野生動物の狩猟などに関して、交渉による高水準のルール策定を目指す。

中国については、産業補助金や強制技術移転、知的財産の窃盗など不公正な貿易慣行の是正にあらゆる手段を尽くすと表明し、併せて、新疆ウイグル自治区での人権侵害を最優先課題に挙げた。米国は1月に同自治区からの綿・トマト製品の輸入を実質的に禁止(2021年1月15日記事参照)したが、今後も強制労働に基づく製品の輸入を認めず、企業の説明責任を高めると記述した。鉄・アルミニウムや光ファイバー、太陽光発電などの過剰生産問題には、同盟国と連携して対処する。なお、近年の対中政策は「断片的」で包括的な戦略が欠けていたと批判する一方、中国との第1段階の経済・貿易協定については「効果的な(執行)枠組み」と評価している。

その他、世界での米国の指導力回復に向けて、2月に就任したWTOのンゴジ・オコンジョ・イウェアラ事務局長(2021年2月16日記事参照)との連携に意欲を示した。前年の報告では、WTOの紛争解決手続きが筆頭課題に上がった(2020年3月6日記事参照)が、今回はデジタル化や中小企業支援などの課題に対処すべく、「ルールと手続きの制度改革に取り組む」との言及にとどまった。なお、1974年通商法301条(対中追加関税、欧州・アジアなどでのデジタル課税、ベトナムの為替操作など)や1962年通商拡大法232条(鉄・アルミ追加関税)に基づく措置については、これまでの政策経緯が記載されたが、今後の方針に関する言及はない。

(注)1974年通商法に基づき、大統領は貿易協定に関する取り組みや、その年の政策方針について、毎年3月1日までに議会に報告を行う義務を負う。

(藪恭兵)

(米国)

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