ウーバーが運転手を労働者認定、ギグエコノミーにも影響の可能性

(英国、米国)

ロンドン発

2021年03月29日

大手配車サービスのウーバー・テクノロジーズは3月16日、英国内の同社運転手7万人余りを雇用関係がある「労働者(Workers)」(注1)として認定した。同社の声明を基に複数メディアが報じた(3月17日付「フィナンシャル・タイムズ」紙など)。これにより、運転手らの「全国最低賃金」は保障され、休暇手当や年金加入などの福利厚生に関する権利も一部付与される。同社が運転手を労働者として認定したのは、英国が世界初となる。

運転手らの最低賃金は3月17日から、英国政府が定める全国最低賃金の1時間当たり8.72ポンド(約1,308円、1ポンド=約150円)となった。なお、年次改定によって4月からは8.91ポンドに引き上げられる予定だ。他方、ウーバーによると、英国の運転手らの平均収入はロンドンで1時間当たり17ポンド、その他の地域では14ポンドとなっており、運転手の99%が全国最低賃金を上回っているとしているが、今回の決定は、柔軟性を維持しながらドライバーの収入を保証し、将来の計画を立てやすくなるとしている。

また、休暇手当が支給されるようになったほか、条件を満たす運転手については、ウーバーからの拠出金とともに年金制度にも自動的に登録される(「ニューヨーク・タイムズ」紙3月16日)。

英国では2016年、一部の運転手らがウーバーに対し、雇用の権利を保障するよう求め訴えを起こしていた。ウーバーは自らを予約代行業者とし、運転手らは自営業者と主張を続けていたものの、英最高裁判所は2021年2月、運転手らはウーバーに従属・依存する立場にあるとし、労働者としての権利を認めている。今回の決定は同判決を受けたものだ。

オンラインプラットフォームを通じて単発で仕事を受注する「ギグワーカー」の権利をめぐる動きは世界各地で見られる。結果として従業員認定とはならなかったものの、米国カリフォルニア州でもギグワーカーと企業間で法廷闘争が繰り広げられた(2020年11月13日記事参照)。今回の英国での判決は、ギグエコノミー(注2)を実践する他のデジタル・プラットフォーム企業にも今後大きな影響を与えるものとみられている。

(注1)英国雇用法の下では、従業員(Employee)、労働者(Worker)、自営業者(Self-employed and contractor)などの雇用形態が存在する。労働者は、従業員が有する法定疾病・出産・育児手当や雇用契約完了時の事前通告が原則として保証されないなど、従業員と比べて権利が限定されるものの、全国最低賃金、有給休暇、差別からの保護のような、限定的な範囲の権利を有する。

(注2)オンラインプラットフォームをベースとした単発での仕事の依頼・受注を可能にした経済形態(Gig Economy)。

(尾崎翔太)

(英国、米国)

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