米USTR、ベトナムの為替政策を不当と判断、対抗措置は講じず

(米国、ベトナム)

ニューヨーク発

2021年01月21日

米国通商代表部(USTR)は1月15日、ベトナムの為替政策に関する調査結果を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ベトナム政府が不当に為替市場に介入するなど、国内通貨ドンを過小評価させ、米国の商業を妨げているとの結論を出した。ただし、1974年通商法301条に基づく追加関税などの対抗措置は発動せず、対話を継続する姿勢を示している。

USTRは、ベトナム国家銀行がドンとドルの為替取引を国内で制限(注1)し、また、外貨準備高を調整することで、直接的かつ持続的に為替市場に影響を及ぼしたと報告した。USTRは今回の決定に際して、ベトナムを為替操作国に認定した財務省との意見調整を行ったとしている。財務省の報告(2020年12月18日記事参照)によると、ベトナム国家銀行は2019年に220億ドルの外貨購入によりドンの実効為替レートを4.2%引き下げ、2020年も9月までに約90億ドル相当の外貨を購入している。

これらに加えてUSTRは、近年におけるベトナムの輸出企業への外国直接投資の拡大なども影響し、同国は2019年に212億ドルの財貿易黒字を実現したと指摘している(注2)。また、ドン安によりベトナム製品の輸入価格が引き下げられ、国内での米国製品の競争力が弱まり、米国製品のベトナム向け輸出価格の上昇にもつながるため、米国の輸出機会を阻害していると報告した。

USTRは、ベトナムの為替政策が301条に基づく対抗措置に値するとしたが、現時点で具体的な措置は取らない方針を示している。ロバート・ライトハイザーUSTR代表は「米国の懸念に対処する上で、米国とベトナムが解決への道筋を見いだすことを望む」と述べている。ベトナム政府はUSTRの決定を「好ましい結果」と受け止め、米国との政策対話を継続する意向を示している(「ロイター」電子版1月16日)。

米連邦議会は「環太平洋パートナーシップ(TPP)」交渉中に為替条項を求めるなど、外国政府による為替操作を超党派で問題視している。バイデン新大統領の政権移行チームに在籍していたブラッド・セスター氏は為替操作への対応の必要性を訴えつつ、協調を重視すべきとの見方を示している。米産業界では、鉄鋼業界や一部の家具メーカーが対抗措置を支持しているが、米国商工会議所や全米小売協会(NRF)は反対を表明している(政治専門紙「ポリティコ」電子版2020年12月29日)。

(注1)ベトナム内の金融機関は、ベトナム国家銀行の許認可の下、同行が公示する中央レートから上下3%の範囲でしか、通貨ドンとドルの取引を行うことができない。詳細については、ジェトロ・ウェブサイト参照。

(注2)米国財務省によると、為替操作国の認定に当たっての基準の1つとして、「大幅な対米貿易黒字(物品の対米貿易黒字額が年間200億ドル以上)」が設定されている。

(藪恭兵)

(米国、ベトナム)

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