欧州委、経済・金融システムにおける自律性の強化戦略を発表

(EU)

ブリュッセル発

2021年01月22日

欧州委員会は1月19日、銀行同盟や資本市場同盟の強化(2020年12月7日付記事参照)など、EUの経済通貨同盟のさらなる深化に向けた取り組みの一環として、「欧州経済・金融システムに関する戦略PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」を発表した。同戦略では、名指しこそ避けたものの米国などを念頭に、一部の国による多国間主義に基づく協力体制に反する一方的な利益の追求が近年顕著だ、と指摘。欧州委は「開かれた戦略的自律性」を掲げ、国際通貨としてのユーロの地位を高めつつ、EUの金融市場インフラを強化しながら、域外国の金融機関や外貨への過剰な依存の軽減することで、EU企業やEU全体の戦略的利益の確保を目指す考えを示した。

同戦略では「開かれた戦略的自律性」の強化策として、以下の3つの柱を掲げている。

(1)ユーロの国際的役割の強化

世界の貿易に占めるEUの割合は4分の1を超えるなど、EUは世界最大の貿易圏となっている。しかし、2018年時点で、EUの輸出においてはユーロによる決済が最多を占めるものの、EUの輸入においては、米国ドルでの決済が最多となっている。こうした現状を踏まえ、EUの貿易相手国など域外国との取引を中心に、ユーロの利用を促進するとした。また、ユーロ建ての金融商品やベンチマークの開発を支援するとともに、特にエネルギーやコモディティー分野でのユーロの国際基準通貨としての地位を高めていくとした。

(2)EUの金融市場インフラの整備とレジリエンスの改善

EUを拠点とする金融市場インフラ(注)の多くが、金融取引を国際的に展開しているが、こうした業務は域外国の法律や規制に服することから、一方的な制裁などの影響を強く受けることが問題となっている。背景には、2018年の米国による対イラン経済制裁の全面再開によって、EU企業が多大な制約を受けただけでなく、EUや加盟国の外交政策にも深刻な影響を及ぼしたことが挙げられている。このような域外国の一方的な制裁から、EU企業やEUの戦略的利益を保護する手段を検討する必要があるとした。

(3)EUによる制裁の実施や執行の強化

制裁は、EUの共通外交・安全保障政策においても主要な外交手段であるものの、その実施に関しては加盟国間でばらつきがみられるなど、規制の抜け道による単一市場への悪影響だけでなく、EUの制裁の実効性における課題を指摘。そこで、制裁の完全かつ統一的な実施に向けた対策が必要とした。

欧州委は今後、同戦略に基づき、欧州議会、EU理事会(閣僚理事会)、欧州中央銀行(ECB)をはじめ、民間企業や公的機関など関係するステークホルダーに対し対応を呼び掛け、2023年に同戦略の実施状況のレビューを行うとしている。

(注)資金決済システム、証券決済システム、清算機関および取引情報蓄積機関を指す。

(吉沼啓介)

(EU)

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