在英日系企業、移行期間終了後の物流混乱を警戒

(英国、EU)

ロンドン発

2020年12月28日

英国・EU間の通商・協力協定合意を受け、英国の経済界からは安堵(あんど)とともに、政府にさらなる対応を求める声も上がっている(2020年12月25日記事参照)。在英日系企業も、合意を好意的に受け止める一方、英国のEU離脱(ブレグジット)に伴う移行期間が終わる2021年1月1日からは、同協定が発効しても通関手続きなどが必要となるため、物流の混乱などを警戒。移行期間終了に先立ち、新型コロナウイルス感染の影響で2020年秋以降に国内主要港の混雑が顕著になっていた上(2020年12月11日記事参照)、直近では新型コロナウイルス変異種の感染拡大による英国とフランス間の物流停止が重なったことで(2020年12月23日記事参照)、懸念が高まっている。

日系自動車部品メーカーの1社は、1月以降のEU向け出荷のため、EUの輸送会社に通関手続きを委託したほか、英国内でも別の代行会社を確保。加えて、オランダの物流会社の倉庫でEU顧客向けの緊急在庫を進めている。一方、英国内の生産では、アジアからの海上輸送の遅れが直撃しており、高額な航空便での在庫確保や納入を余儀なくされている。1月初旬まではクリスマス休暇前に確保した在庫で対応可能とみるが、既に顕著な物流の混乱に英EU間の通関手続きが加わり、同月中旬から問題が生じるのではないかと、不安を募らせる。

日系食品商社の1社は、1月からの物流混乱に備えて在庫積み増しを図り、秋口からEUのサプライヤーに商品を発注。しかし、製造が追いつかずに納入を待っている商品もあり、英フランス間の物流遮断の影響などで到着がさらに遅れそうだと、不安を強めている。

多数の顧客を持つ日系物流会社の1社は、1月以降に英国で対応する通関手続きの件数が現在の2.5倍程度に増加すると予測。関連部門のスタッフ増強や24時間態勢での手続き対応の準備を行っている。英国の顧客はクリスマス休暇を踏まえた生産・販売計画に合わせて在庫を確保していたため、英国向けの荷動きでは直近の物流混乱の影響は軽微だったが、EU側で英国向けのトラックの手配が難しくなっているほか、英国からEUへの輸送でも配送遅延などが発生しているという。また、英国では1月から段階的にEUからの輸入通関手続きが導入されるため(2020年6月16日記事参照英国の輸入にかかる通関手続きPDFファイル(0.0B)解説書参照)、通関簡易手続き制度(CFSP)や関税繰り延べ口座(DDA)の設定、輸入VATに伴う登録など、英国の輸入者の準備に関する対応も必要になるとみている。

別の日系物流会社では、英国の顧客から移行期間終了後の備えとして在庫積み増しの要望が多かったことを受け、新たに倉庫を建設して保管スペースを2倍に拡大。通関手続きの増加を見越してスタッフ増強やシステムの更新、社内講習なども行い、態勢強化に努めている。他方で、直近の英フランス間の物流停止により年末の物流計画が狂い、計画再考や顧客対応に追われている。

(宮崎拓)

(英国、EU)

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