改正知識経済振興法を公布も、業界団体からは不満の声

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2020年12月18日

アルゼンチン政府は2020年10月26日、改正知識経済振興法(法律第27,570号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公布した。同法は、科学および新技術によって知識や情報のデジタル化を推進し、経済活動の活性化を目的とするもので、もともとは2019年6月10日付法律第27,506号に基づき、マウリシオ・マクリ前政権下で制定された。しかし、2019年12月に発足したフェルナンデス政権は、「導入が困難」「優遇措置の対象基準など詳細情報不足」などを理由に、2020年1月20日に法律第27,506号を無効としていた(2020年1月24日記事参照)。

今回、あらためて成立した知識経済振興法は、ソフトウエア産業振興法(法律第25,922号)の恩恵を受けていた企業に対しては2020年1月1日にさかのぼって適用される。改正知識経済振興法は2029年12月31日まで有効。

改正知識経済振興法の対象となる経済活動は、旧法から変更がなく、以下のとおり。

  1. ソフトウエアおよび情報通信・デジタル関連サービス
  2. 映像・音声コンテンツの制作とポストプロダクション
  3. バイオテクノロジー、バイオエコノミー、生物学、生化学、微生物学、生命情報科学、分子生物学、脳科学、遺伝子工学など
  4. 地質学に関するサービス
  5. 法律、会計、通訳、広告、デザインなどサービスの輸出
  6. ナノテクノロジー、ナノ科学
  7. 航空宇宙産業および関連技術
  8. 原子力産業および関連工学
  9. 人工知能(AI)、ロボット工学、インターネット産業、モノのインターネット(IoT)、インダストリー4.0の特徴である技術を使用したオートメーション化、生産のデジタル化、財・サービスの導入など
  10. 工学、精密科学、自然科学、農業科学、医学などに関わる研究や実験開発

主な優遇措置は、以下のとおり。

  • 知識経済振興法の優遇措置を変更することなく安定を保障。
  • 付加価値税(IVA)など税金の支払いに利用できる特別手当(Bono de crédito fiscal)の支給。全従業員の社会保障費の70%相当額とする。また、女性、トランスベスタイト・トランスジェンダー、エンジニア・自然科学・精密科学などの専門家、障がい者、社会的補助を受けていた人などを新規雇用した場合、社会保障費の80%相当まで引き上げる。
  • 法人税率の引き下げ。引き下げ率は企業規模によって異なる。零細・小規模企業に対して60%、中規模企業は40%、大企業は20%引き下げる。国外で支払った税金を法人税から税額控除することも可能。
  • 輸出取引を行った場合は付加価値税(IVA)を免税。

改正知識経済振興法の対象となるためには、年間売上高の70%が上記経済活動(1.~10.)によるもので、さらに次の条件のうち2項目を満たすことが求められる。

  • 商品・サービスの質の持続的改善
  • 年間売上高の1%(零細企業)、2%(中小企業)、3%(大企業)を研究開発に投じる。または、全従業員給与額の1%(零細企業)、2%(中小企業)、5%(大企業)を従業員の育成に投じる。
  • 年間売上高の4%(零細企業)、10%(中小企業)、13%(大企業)相当が財・サービスの輸出額に相当すること。

10月8日付の現地紙「インフォバエ」によると、アルゼンチンの知識経済関連サービスの業界団体Argenconは「知識サービス産業に関する法的枠組みの制定は歓迎するものの、世界に向けた競争力の向上を促す法律となっていない」と指摘する。また、「税制や法的安定性を保証するものでなく、企業規模によって恩恵を差別化する」と不満を訴えた。Argenconによれば、年間輸出額が60億ドルに達する知識関連サービスは、大豆など穀物・油糧種子、自動車産業に次ぐ第3位の輸出産業に位置付けられている。また、同分野は今後、「20万~30万人の新規雇用を創出する可能性を有する」と主張している。

(山木シルビア)

(アルゼンチン)

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