経済界、人材派遣を原則禁止する法案提出に強く反発

(メキシコ)

メキシコ発

2020年11月16日

日本経団連に相当するメキシコ企業家調整評議会(CCE)は11月12日、政府が人材派遣サービスを原則禁止する法案を国会に提出した(2020年11月13日記事参照)ことを受け、経済界への事前の相談がなかったことに強い不満の意を表する声明文を発表した。2019年以降に国会が開催した労働法改正に関する複数の公聴会に、CCEは民間部門の代表として積極的に参加しており、2020年2月に上下両院で開催された人材派遣サービス規制に特化した公聴会にも参加している。これらの公聴会では、人材派遣スキームを通じた違法行為の規制は強化すべきとの意見で政府も議員も経済界も一致しているが、経済界としては、人材派遣サービスの完全な禁止には反対する立場を貫いてきた。CCEは、政府がその立場に一定の理解を示し、法案を提出する際には経済界に事前に相談すると約束したにもかかわらず、政府が全く相談もなく、全面禁止に近い法案を国会に提出したことについて、「約束が守られなかった」とし、驚きと懸念を表明している。

CCEは、人材派遣サービスは自動車産業や電子産業、鉱業などで広く活用されており、行き過ぎた規制は正規雇用の喪失につながるだけでなく、国の外貨収入を減らすことにつながると警鐘を鳴らす。法律を順守した人材派遣は、労働者に社会保険ネットワークを提供し、納税義務も果たしているとし、適切な規制の下での人材派遣は世界中で用いられているスキームであり、メキシコの労働市場を強化して競争力を保つためにも、人材派遣はメキシコの法体系の中で存続すべきだと主張する。メキシコ経営者連合会(COPARMEX)も11月13日付でプレスリリースを出し、新型コロナウイルスの感染拡大は雇用に大打撃を与えており、今必要なのは労働市場の規制強化ではなく柔軟化だとし、人材派遣スキームの撤廃は労働市場の悪化を深刻なものとし、インフォーマル就労の増加を招くと警告している。

就業者の6割弱を占めるインフォーマル就労率

国立統計地理情報院(INEGI)によると、2020年第1四半期(1~3月)時点で、全就労者数約5,535万人のうち、合法的な雇用契約がなく社会保険にも加入していないインフォーマル就労者の割合は56.1%(約3,104万人)に上る。インフォーマル就労は、露天商や行商人などいわゆる「インフォーマルセクター」と呼ばれる非合法な事業者や、自給自足的農家、家政婦などに限られず、企業や団体などで働く労働者(約3,101万人)の24.9%も社会保険の加入や納税登録などがなされていないインフォーマルな雇用形態だ。メキシコの労働法では、期限付き雇用の条件が厳しく、定年制もなく、原則として無期限雇用が求められるため、需要に応じた柔軟な労働力の調達が難しい。それを補うために人材派遣スキームが活用されてきたが、経済界は、これを禁止することは正規雇用を増やすよりも、インフォーマルな就労形態を増やすことにつながると警鐘を鳴らしている。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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