人材派遣を原則禁止する連邦労働法改正法案を国会に提出へ

(メキシコ)

メキシコ発

2020年11月13日

メキシコ政府は11月12日、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領の早朝記者会見において、人材派遣サービスを規制する意向を明らかにした。連邦労働法など複数の法律改正案を国会に提出する。ルイサ・マリア・アルカルデ労働社会保障相によると、現政権下で4,709回の事業所査察を行った結果、約1,200社が違法な人材派遣サービスを利用しており、86万2,489人の労働者に悪影響が及んでいる。また、違法な人材派遣会社は、法律が定める福利厚生や社会保険を労働者に提供していないだけでなく、実際よりも低い給与を登録する行為などを通じて税金の支払いも逃れており、国庫にも悪影響を及ぼしている、としている。

連邦労働法改正案は、人材関連サービスを、(1)人材派遣、(2)専門サービス・工事提供、(3)人材紹介、の3つに分類する(連邦労働法改正案第12~14条)。(1)は、自社が正規雇用する労働者を他社の事業所に派遣して労働をさせるサービスで、これは原則として禁止する。(2)も、他社の事業所に人材を派遣するかたちとなるが、派遣先企業の定款などに記載される事業目的(本業の経済活動)以外の専門サービスを行うスタッフに限定される。清掃、警備、税務・会計、専門工事などが相当し、労働社会保障省(STPS)の許認可を得ないと活動ができない。また、合法的な専門サービス派遣業者のリストを整備し、インターネット上で公開し、リストにない業者の営業を禁じる。(3)は、顧客の要望に応じて人材を選定し、研修などを施し、顧客との雇用契約を締結するまでのサービスを提供する企業で、人材紹介会社は紹介する労働者の雇用主にはならない。同サービスであれば、許認可は必要ない。

連邦労働法の改正に合わせ、社会保険法、労働者住宅基金法、連邦税務総則法(CFF)、所得税(ISR)法、付加価値税(IVA)法も改正する。社会保険法や労働者住宅基金法の改正は、社会保険負担逃れの行為を抑止するため、(2)の専門サービス派遣会社を活用した企業に対する社会保険庁(IMSS)などへの報告義務を課す。また、各種税法の改正により、(1)に該当する人材派遣サービス対価の支払いをISR法上の否認経費とし、法人所得税算定の際に費用控除できなくする。また、IVAの仮払い処理の対象からも除外する。(2)の専門サービスなどへの支払いは損金算入やIVAの仮払い処理が可能だが、専門サービス派遣業者がSTPSの許認可を得ていることをサービス利用者が証明する義務が生じる。

進出企業にも大きな影響

今回の一連の法改正がこのまま実現すると、会社の事業目的に記載された本業のための人材を派遣会社から調達することはできなくなる。そのため、製造業やホテルなどで利用されている同一企業グループ内に人材派遣会社を設立し、同グループの事業会社に人材を派遣する、通称「インソーシング」が認められなくなるだけでなく、季節要因が大きな業種などで需要に応じて柔軟に労働者を増減させるために派遣会社を活用することもできなくなるため、進出企業にとっても大きな影響が出るとみられている。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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