新型コロナウイルスの影響で工業用酸素が不足

(インド)

ムンバイ発

2020年10月13日

新型コロナウイルスの感染拡大が続くインドで、医療用酸素需要の高まりを受け、工業用酸素の供給が不足している。その結果、鉄鋼業界で一部操業停止に追い込まれるなどの影響が出始めている。マハーラーシュトラ(MH)州は9月7日、州内の酸素メーカーに対して、生産量の80%を医療用に配分するよう通達した(添付資料参照)。工業用は残りの20%で賄わなければならず、供給が不足している。また、供給量不足は価格の上昇を引き起こしている(「タイムズ・オブ・インディア」紙9月14日)。

MH州では、段階的なロックダウン解除が進展している。最新のガイドライン(2020年10月6日記事参照)によって、州内ほぼ全ての業種で工場操業が可能となった。生産活動は正常化に向かい始めている。また、インドで最も消費活動が活発化する11月のヒンドゥー教の大祭・ディワリの祭事期を前に、ロックダウンで抑え込まれていた自動車や二輪車の需要が大きく伸びてきた。需要に対応するために、工場の稼働は最盛期を迎えることになる。

しかし、工業用酸素の不足によって、一部工場は操業を停止せざるを得ない。製造工程で大量の酸素を使用する鉄鋼業は、その影響が特に甚大になっている。鉄鋼業界の稼働率が低下すれば、自動車や二輪車をはじめ、多くの工場の稼働率も低下することになる。同様の問題はMH州だけでなく、タミル・ナドゥ州など他州でもみられ始めている(「エコノミック・タイムズ」紙10月2日)。工業用酸素不足の影響は、(鋼材の成形・加工を行う)鉄鋼2次メーカーで顕著だ。他方、JSWなど地場大手の1次メーカーは、自社設備で酸素を製造しているために、大きな影響は出ていないとの報道もある(「エコノミック・タイムズ」紙10月2日)。

ロックダウンによる深刻な景気後退からの回復のためには、産業界への酸素供給は必須ながら、新型コロナ感染者の治療はそれ以上に優先されるため、州政府は苦境に立たされている。

(比佐建二郎)

(インド)

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