食用コオロギを世界へ、ベトナムの地方発スタートアップ

(ベトナム)

ホーチミン発

2020年10月09日

ベトナム政府は、2025年までに2,000のスタートアップ・プロジェクト、600社のスタートアップが生まれることを目標としている中(2019年12月17日記事参照)、都市だけなく地方でも新たなスタートアップが生まれている。

ベトナム南部ビンフォック省に拠点を置き、食用コオロギを原料とした健康食品を開発するクリケット・ワン(Cricket One外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注1)はその1つだ。同社は、スタートアップへの投資で有名な500スタートアップス(500 Startups)(注2)など複数社から出資を受けており、世界的にも注目を集めている。今回、同社の共同設立者で最高経営責任者(CEO)のナム・ダン氏にヒアリングを行った(9月18日)。

(問)提供している商品は。

(答)当社の主な商品は食用コオロギ100%を原料とする「クリケットパウダー」。タンパク質、鉄分、カルシウムなど栄養価が高いことが特徴で、特にタンパク質が約70%というスーパーフード(注3)だ。パスタや麺、エナジーバー、菓子などに使用されており、最近では、ミルクティーやクラフトビールの材料としても注目されている。現在、日本、米国、EUなど15以上の国・地域に輸出しており、特に先進国を中心に人気が高い。

(問)設立のきっかけと、地方を選んだ理由は。

(答)将来、世界人口の増加に伴う食糧難が想定され、エコで持続可能な食糧源の需要が高まると考えたため。食用コオロギは、牛肉・豚肉・鶏肉に比べ、生産に必要な餌・水・時間・敷地が少なく、環境にも優しい将来的に有望な食糧源と考えられている。例えば、同量の牛肉を生産する場合と比較すると、餌は約15分の1、水は約8,000分の1の消費量で、発育のスピードも約35日間と短い。

ベトナム国内では、昔から食用コオロギの養殖が行われていたが、当社のような大規模な養殖・加工・製品化は国内初めて(注4)。地方のビンフォック省を選んだ理由は、コオロギの生育に適した1年中高温の環境であることと、自身の故郷であり、地域社会に少しでも貢献したいという思いから。

(問)日系企業との取引実績は。

(答)既に日本の商社や小売業者と取引している。名古屋の大学に2年間留学し、日本の商社で働いた経験もあり、日本を「第二の故郷」と思っている。当社としても、日本はとても有望な市場と捉えているため、興味のある日本企業はぜひ連絡してほしい。

(注1)クリケット(Cricket)は、英語でコオロギの意味。

(注2)米国シリコンバレーに本社を置く、世界的ベンチャーキャピタル。同社は、東南アジア最大級のユニコーン(企業価値または時価総額が10億ドル以上となる、未上場ベンチャー企業)のグラブ(Grab)に出資したことでも知られる。

(注3)スーパーフードとは、栄養価が高く、健康成分が多く含まれる食品のこと。

(注4)現在、省内の12の農家と契約し、食用コオロギを養殖して、自社工場において加工・製品化しており、生産能力は月ベースで約6トン。

写真 自社工場の前でナム・ダン氏(ジェトロ撮影)

自社工場の前でナム・ダン氏(ジェトロ撮影)

写真 人気商品の「クリケットパウダー」(クリケット・ワン提供)

人気商品の「クリケットパウダー」(クリケット・ワン提供)

(小川士文)

(ベトナム)

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