国民投票でEU移民受け入れを制限するイニシアチブ否決

(スイス)

ジュネーブ発

2020年10月01日

スイスで国民投票が9月27日に実施され、「移民制限」に関するイニシアチブと、「出産時の父親の育児休暇導入」「子育て世帯の税額控除」「狩猟法改正」「新型戦闘機の調達」に関するレファレンダムに対して投票が行われた。順にそれぞれ、61.71%で否決、60.34%で可決、63.24%で否決、51.93%で否決、50.14%で可決された。

今回特に注目を集めていたのは、1点目の「移民制限」に関するイニシアチブだ。これは、EUからの移民が今後も制限なく増加することにより、国内労働市場や公共サービス、社会が被る影響を懸念して、EUと締結している「人の移動の自由」の破棄を求める提案だった。人の移動の自由は、スイスとEUが自由な相互市場アクセスを確保するために1999年に締結した第1次バイラテラル協定の中で保障されている。この協定は7分野から成り、1分野のみの破棄はできず、どれかが破棄された場合は全体破棄となる条項(ギロチン条項)が含まれている。人の自由な移動の破棄は、同協定に含まれる他の分野(陸上交通の規制緩和、研究交流、商品規格の相互承認など)も破棄となることを意味する。EU市場へのアクセスや、EUとの間で膠着(こうちゃく)状態に陥っている制度的条約の交渉に大きな影響が生じるとして、イニシアチブを提起した国民党を除く全ての政党や経済団体は反対票を投じるよう国民に呼び掛けていた。

写真 移民制限イニシアチブへの賛成を訴えるポスター(ジェトロ撮影)

移民制限イニシアチブへの賛成を訴えるポスター(ジェトロ撮影)

2点目は、父親に2週間の育児休暇を法律により認めるもので、可決された。スイスでは、母親には14週間の産後・育児休暇が付与されているが、父親に対しては子供の誕生に際しての特別休暇を保障する法律はなく、個別の労働契約や労働協約などにより異なるものの、慣例として1日しか認められてこなかった(2020年8月21日記事参照)。今回可決されたことにより、出産時に育児休暇を取得した父親に国の所得補填(ほてん)スキーム(APG)を通じて給付金が支給されるようになる。

3点目は、子供1人当たりの税控除額を引き上げるための所得税法改正についてだった。改正による恩恵が高所得層に偏ることや、控除額の引き上げによって年間3億7,000万スイス・フラン(約425億5,000万円、CHF、1CHF=約115円)の連邦財政の減収が生じるなどの懸念があり、否決された。

このほかは、山間部や家畜の安全を確保するため、オオカミなどの予防的駆除を可能にする狩猟法改正と、新規の戦闘機調達に関するものだった。

(城倉ふみ、マリオ・マルケジニ)

(スイス)

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