WTO紛争会合開催、EUの対米措置承認、米国の対中追加関税措置は上訴へ

(世界、EU、米国、中国)

国際経済課

2020年10月29日

WTOは10月26日、紛争解決機関(DSB)会合を開催した。今回のDSB会合では、EUが16日に提出した米国大型航空機に対する補助金への対抗措置の申請外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが正式に承認された(2020年10月15日記事参照)。この結果、EUは米国に対して追加関税措置のほか、サービスの自由化約束の停止措置などを課すことが可能になった。

EUはDSB会合で、EUと米国が双方に対抗措置を発動することは誰の利益にもならないとする声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、交渉による解決を訴えた。他方、米国がWTO協定違反とされた補助金措置を是正しない場合は、対抗措置を取らざるを得ないとしている。

対する米国は同会合で、対抗措置の根拠となった補助金措置は既に撤回済みとし、EUの対抗措置発動はWTO協定に違反するとする声明PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。一方で、米国は既にEU側に紛争の合理的な解決に向けた提案を行っているとし、近いうちに解決策を見つけることは可能だとしている。

上級委の機能停止で紛争解決は先送りへ

今回の会合で米国は、同国の対中追加関税措置がWTO協定に違反するとしたパネル報告書について、上訴通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを提出した(2020年9月18日記事参照)。WTOでは現在、その上訴審を担う上級委員会(以下、上級委)が機能停止に陥っている(2019年12月12日記事参照)。こうした中、米国が上訴を決めても、現状のままでは上級委による結審は見込めないのが実態だ。

なお、同紛争以外にも上級委が機能停止状態にある中で、複数の案件が上訴されている。EUとの間で上訴案件(DS494)を抱えるロシアは、こうした状況に失望しているとする声明を発表した。EUはこれに対し、紛争解決の代替的手段の仲裁手続きを具現化した暫定上訴制度(MPIA)に加入するよう呼びかけた(2020年5月1日記事参照)。

今回のDSB会合でも、121のWTO加盟メンバーが上級委員会の機能回復を目指すため上級委員の選定プロセスを開始する提案を行った。しかし、米国は上級委の権限逸脱問題などが解決されていないことを理由に、この提案を支持する立場にないとした。

(山田広樹)

(世界、EU、米国、中国)

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