WTOパネル、米国の対中追加関税措置のWTO協定違反を認定

(米国、中国、世界)

国際経済課

2020年09月18日

WTO紛争処理小委員会(パネル)は9月15日、米国の対中追加関税措置に関する紛争(DS543)について、報告書を配布した。パネルは本事案の申立国である中国の主張を認め、米国のWTO協定(GATT)違反を認定した。同報告書は、米国の1974年通商法301条(以下、301条)に基づく対中追加関税措置に関する、初めてのパネル判断となる。

本事案では、米国の301条に基づく対中追加関税措置のうち、第1弾(2018年7月9日記事参照)と第3弾(2018年9月25日記事参照)のWTO協定整合性が争われた。301条は、貿易協定違反や米国政府が不公正と判断した他国の措置に対し、調査に基づく一定の貿易制裁措置を講じる権限を通商代表部(USTR)に付与している。トランプ大統領は2018年3月22日、米国企業の知的財産や技術を中国企業に移転するために中国政府が不当に介入しているとする調査報告を受け、同条に基づく対中制裁措置の発動をUSTRに命じていた(2018年3月23日記事参照)。

パネル報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによれば、中国は米国の追加関税措置が中国産品だけに適用されており、かつ追加関税率が米国のWTO譲許税率(自由化約束)を超えているとし、GATT1条(一般的最恵国待遇)とGATT2条(譲許表)の違反を主張した。これに対し米国は、(1)中国との当該紛争は2020年2月14日に発効した米中経済・貿易協定(2020年2月21日記事参照)など2国間協議を通して解決済みであるとし、パネルの管轄権を否定した。さらに米国は(2)窃盗や強要といった米国の「善悪の基準」(standards of rights and wrong)に反する行為を排除するため追加関税措置は必要であるとし、仮に同措置が違法とされても、GATT20条(a)(公徳の保護)の下で正当化されると主張した。

パネルはまず米国の主張(1)について、中国側が当該紛争について米国と合意に達していないとしていることに触れ、その訴えを退けた。次に中国側の主張を認め、米国のGATT1条・2条違反を認定した。さらにパネルは米国の主張(2)について、「善悪の基準」が同国にとって重要であることに注意(note)しつつも、米国は追加関税措置が公徳目的にどのように貢献するのか説明をできていないとして、その主張を退けた。この結果、パネルは米国に対してWTO協定に基づき追加関税措置を是正するよう勧告した。

現在、WTOは最終審に当たる上級委員会が機能停止に陥っている(2019年12月12日記事参照)。同報告書を受けて、仮に米国が上訴するとしても、本事案は上級委員会が機能を再開するまで終局的に解決されない見通しである(注1)。なお、中国は米国の対中追加関税措置の第2弾(DS565)と第4弾(DS587)についても、それぞれWTOの紛争解決手続きを開始している(注2)。

(注1)パネル判断に関する中国側の反応については2020年9月18日記事を参照。

(注2)第2弾(DS565)について、中国はパネル設置を要請中。第4弾(DS587)について、中国は協議を要請中。

(山田広樹)

(米国、中国、世界)

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