FTAなき英国離脱を警戒し、不満を募らせる欧州産業界

(EU、英国)

ブリュッセル発

2020年09月29日

EUと英国の将来関係協議の第9ラウンドが9月29日~10月2日に開催されるのを前に、欧州産業界があらためて早期の合意を求めた。

ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は9月28日に声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、新型コロナウイルス危機の影響に加え、自由貿易協定(FTA)なき英国のEU離脱となれば、企業は壊滅的な影響を受けるとして、EUと英国双方に対して、妥協点を見いだし、合意へ向けて強い政治的な意思を示すことを促した。残された時間は短いが、「欧州産業界は、合理的な結果を得ることは可能で、公平な競争を確保しながら摩擦ができるだけ少ない貿易を続けられると、まだ確信している」と述べ、離脱協定などこれまでに取り決めたことを十分に尊重し、履行することを求めた。

2021年1月以降の規制の不明確さにいら立ちを示す業界も

欧州製薬団体連合会(EFPIA)も、英国製薬業協会(ABPI)とともに9月28日に声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。合意に達しなければ、短期的な医薬品の供給だけでなく、EUおよび英国経済に長期的な影響が出ると警告し、新型コロナのワクチンや治療薬の開発に業界全体で取り組んでいる中、2021年以降の規制について不明な点が多いことにいら立ちを示した。医薬品の再試験や供給不足リスクを避けるため、適正製造規範(Good Manufacturing Practice)に関する相互承認協定(Mutual Recognition Agreement)を交渉することを求めた。相互承認協定は、しばしば貿易協定とは別に結ばれ、仮にFTAに合意できなくとも、供給不足リスクを避ける手段になるとし、逆に、移行期間の終了までに相互承認協定に合意できなければ、医薬品の再試験が必要となるため、供給が4~6週間遅れる可能性があるとした。また、北アイルランド議定書によってEU規則を適用するとした北アイルランドをめぐっても、いまだ不明瞭な点があると指摘し、北アイルランドで医薬品の供給が途切れる可能性があるため、新たな規制、規則は段階的に適用するよう求めた。

欧州の食品・飲料事業者の産業団体フード・ドリンク・ヨーロッパも、9月24日に発表した声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにおいて、移行期間の終了まで残り約3カ月となっても、動植物の検疫、食品・飼料への規制などについて、今後の英国の規制には不明なことが多く、対策を講じることが難しいと不満を表し、将来の規制内容を早期に公表することとFTAの合意を求めた。農水・食品部門もまた、英国のEU離脱の影響を最も受けた部門だとして、7月の特別欧州理事会(EU首脳会議)で合意された2021~2027年の次期中期予算計画案に含まれる「英国EU離脱(ブレグジット)調整準備金」の早期の配分も求めた。

自動車業界外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2020年9月15日記事参照)、運輸業界外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなども、FTAの合意を切望する声明を発表しており、欧州産業界は、交渉期限とされる10月15日(2020年9月8日記事参照)が近づく中、交渉の行方を注視している。

(滝澤祥子)

(EU、英国)

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