米国、イランからイラクへの電力輸入の制裁適用除外措置を60日間延長
(イラク、米国、イラン)
ドバイ発
2020年09月30日
米国政府は9月24日、イランからのエネルギー輸入に関する、イラクへの米制裁適用除外措置を60日間延長した。2018年11月に米国による対イラン制裁が本格的に再開(2018年11月7日記事参照)されて以降、イラクへの適用除外措置は一定の期限を設けて繰り返し延長されており、今回で通算9回目の延長となった。前回は2020年5月にイラクでカディミ政権が発足(2020年5月8日記事参照)したことを受け、「そのサポートのため」として120日間の延長を認めていた。今回、米国務省当局者の話としてロイター通信などが報じたところでは、「イランからのエネルギー輸入への依存を減らすためのステップ」として短期間容認したものとしている。
S&P(4月27日付)によると、今回の除外措置では、イラクに対し、年間1.2ギガワット(GW)の電力と夏季の需要ピーク時の最大日量12億立方フィートまでの天然ガスをイランから輸入することを認めている。イラクでは長引く情勢不安を背景にインフラ整備が遅れ、慢性的に電力供給が不足。国際エネルギー機関(IEA、2018年)によると、現状の発電能力は16.4GWで、ピーク時の電力需要27.3GWの6割にすぎない。併せて、発電燃料の多くをイランからの天然ガス輸入に依存しており、その供給はイラク住民にとって死活問題となっている。
イラクの現地紙は、米制裁適用除外の延長が発表された翌日の25日にイラク電力省が「3GWの電力供給を近く追加できる」と発表し、湾岸協力会議(GCC)諸国との送電網の設置の協議も進めているとして、イラン依存の縮減に取り組んでいる姿勢を報じている。27日にはヨルダンとも電力輸入に向けた送電網を開発する契約を調印、26カ月以内(2022年11月末まで)に稼働を開始する予定と、イラク国営通信が伝えている。
米国企業の参入も進む。カディミ首相とトランプ大統領との首脳会談に先立つ8月19日に、大手エネルギー企業5社(GE、シェブロン、ハネウェル、ベーカーヒューズ、ステラ・エナジー)がイラク石油省、電力省と計80億ドル相当の契約を締結したと、米エネルギー省が発表した。一方で、イラク電力相はイランからの電力輸入を停止するには「3~4年を要する」と4月に発言、6月にはイランと2年間の輸入契約に調印したと報じられている。
(田辺直紀)
(イラク、米国、イラン)
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