チリ小売り大手ファラベラがアルゼンチン撤退の意向、外資系企業の撤退加速も懸念

(アルゼンチン、チリ)

ブエノスアイレス発

2020年09月25日

チリの小売り大手ファラベラ・グループは9月14日、アルゼンチンでの事業売却を進めていることを明らかにした。複数の現地メディアが報じた。ファラベラが報道各社に送付したプレス発表によれば、同グループは現在「アルゼンチン国内での事業の収益に関するオプションを検討中で、戦略的なパートナーの参入も(オプションに)含む」とし、さらに「閉鎖予定の4店舗の従業員の自主退職に関する手続きを開始」する。これを受けて、SNSや国内メディアが同発表を大きく取り上げた。さらに、同報道を受け、多業種の企業の撤退や事業売却に関する動きが話題となっている。

ファラベラは、1990年代にアルゼンチンに進出し、これまで全国で百貨店(Falabella)を10店舗、ホームセンター(Sodimac)を9店舗展開してきた。同社のプレス発表によると、「新型コロナウイルス感染拡大は、リテール部門のデジタル化プロセスを急速化させ、売り上げに大きく影響した」としている。さらに、「事業を継続するためにも、近々、ブエノスアイレス市に位置するファラベラおよびソディマックのそれぞれ2店舗を閉鎖する」決定を下したことも明らかにした。同社は、チリとアルゼンチンのほかに、ペルー、コロンビア、ブラジル、ウルグアイ、メキシコで事業を展開しているが、アルゼンチンにおける直近3カ月間の売り上げは、グループ全体の売上高の5%に満たなかったと判明した。販売している多くの製品は輸入品で、アルゼンチン政府が導入している外貨取引規制や輸入規制の影響を受けたとみられる。

9月19日付の現地紙「クラリン」は、現地民間調査会社のファースト・キャピタルが実施した調査では、「2020年に入ってから、既に外資系企業28社がアルゼンチンからの撤退またはその意向を示している」と伝えた。ファースト・キャピタルは、「現在のアルゼンチンでは中長期的な投資誘致政策が明確になっていない」だけでなく、政府は「連続200日以上の外出禁止措置を継続し、解雇の禁止措置、増税、外貨取引規制、輸入規制など、さらに富裕層に対する増税も検討中で、投資誘致に逆行する措置をとっている」と、コメントしている。また、同社アナリストは「『新型コロナ禍』の影響に限らず、アルゼンチン特有の構造的な問題が多く存在する」とし、「ここ10年で、世界の海外直接投資は平均で82%増加しているのに対し、アルゼンチンでは18%減少した」と説明する。

分野別にこれまで撤退を発表した主な企業は次のとおり(出所は現地報道および各社プレス発表)。

  • 小売り:米国ウォルマートがアルゼンチン国内事業の売却を計画していたが、現時点では計画は停止。
  • 自動車部品:米国自動車塗装メーカーのアクサルタ、米国化学メーカーのPPG、フランスのフロントガラスメーカーのサンゴバン・セキュリットは、国内工場閉鎖を発表。ドイツ化学品大手ビーエーエスエフは、OEM(相手先ブランド製造)工場をブラジルに移転することを発表。
  • アパレル:米国ナイキはメキシコAXOへ国内事業を売却することを発表。米国VGコーポレーションも撤退を発表。
  • 製薬・医薬品:ドイツのパッケージメーカーのゲレシャイマーおよびフランス化粧品・医薬品メーカーのピエールファーブルは地場企業に国内事業の売却を発表。
  • 航空会社:格安航空会社(LCC)ノルウェジアン・エアは国内路線をジェットスマートに売却を発表。ラタム航空、ニュージーランド航空、カタール航空、エミレーツ航空などが運航を停止(2020年9月16日記事参照)。
  • その他:国内でスターバックスとバーガーキングを運営するメキシコの飲食店経営大手アルセアの撤退説も浮上したが、同社は否定。ただし、「可能な選択肢を模索中」とも認めた。
写真 閉鎖が決定したブエノスアイレス市内のファラベラ店舗(ジェトロ撮影)

閉鎖が決定したブエノスアイレス市内のファラベラ店舗(ジェトロ撮影)

(山木シルビア)

(アルゼンチン、チリ)

ビジネス短信 c21a454dc432c8df