「新型コロナ禍」で活況を呈するインド農村経済、トラクター販売が好調

(インド)

ニューデリー発

2020年08月21日

新型コロナウイルス感染が拡大する状況において、インドでは農村地域でトラクターの販売が好調だ。インドトラクター製造業協会は8月10日、2020年7月のトラクター販売台数を7万645台と発表した。厳格なロックダウン措置を講じていた3月、4月は販売が減少したが、5月からは回復傾向を見せている(添付資料図参照)。

トラクターの普及は、農村地域の景況のバロメーターともいわれる中、「新型コロナ禍」で農村経済の活況が促されている要因としては、ロックダウンの都市部で職を失った出稼ぎ労働者が農村へ戻り、安価な労働力として生産活動や公共インフラ事業に就いている点や、モンスーン期の降雨量が平年よりも増加し、農業の好調につながっている点などが挙げられる(「ヒンドゥスタン・タイムス」紙6月23日)。農村の未舗装悪路に耐える頑強さと駆動力、そして農耕のみならず輸送兼用のニーズから、トラクターはインドの農村地域で根強い需要がある。

もとより農村部は、封じ込めゾーンが多数存在する過密な都市部と比べ、新型コロナウイルス感染拡大の影響はそれほど大きくなかった。ロックダウン中の農産物の州間物流も、当初の混乱を除けば、生活必需品という名目で確保されてきた。地場格付け・調査会社クリシルは、2020年度のインドのGDP成長率をマイナス5%と予測する一方、農業部門はプラス2.5%としている。

インド政府が5月14、15日に発表した新型コロナ対策経済パッケージ(2020年5月20日記事参照)でも、農業部門は下支え対象だった。農業や農家への支援を重視し、農業農村開発銀行(NABARD)など政府系金融機関を通じた2兆ルピー(約2兆8,000億円、1ルピー=約1.4円)の追加融資、金利補助金、個人ローン枠の拡大などの金融支援策と、1兆ルピーの農業インフラ基金設置が打ち出された。農産物の生産・備蓄・流通販売の円滑化や需給バランスの障害撤廃とともに、販売先の拡大や、農家が適正価格で販売でき、生産意欲を高めることができるよう、外部環境の整備を目指している。

日系トラクターメーカーは「今、農家には潤沢な資金がある。政府の緊急資金援助が末端に届いているのではないか」との感触を語った。また、トラクター部品を製造する日系企業は「トラクターは売れ行き好調で、当社の部品生産も大きな恩恵を受けている。今年のトラクター年間生産高は過去最高水準にまで達する」と予測している。

(大穀宏)

(インド)

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