米USTR、対ケニア交渉の目的と分野を発表、国有企業への規律や汚職防止を目指す

(米国、ケニア)

ニューヨーク発

2020年06月03日

米国通商代表部(USTR)は5月22日、ケニアとの貿易協定に向けた交渉目的を発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。アフリカ諸国との貿易協定のモデルとすべく、幅広い交渉分野を設定している。2015年大統領貿易促進権限(TPA)法に基づき(注1)、6月22日以降、ケニアとの交渉開始が可能となる。

交渉目的には、24の分野を盛り込んだ。USTRがパブコメ募集時に列挙していた財・サービス貿易や税関手続き・貿易円滑化、衛生植物検疫措置(SPS)、貿易の技術的障壁(TBT)に加え(2020年3月27日記事参照)、電子商取引や国有企業、労働、環境、汚職防止などのルール分野を含んでいる。パブコメには5,000件超の意見が提出された。

貿易面では、ケニア側について、米国原産の工業品と農産品の輸入関税の包括的な撤廃に加え、米国からの輸出の妨げとなる非関税障壁や関税割り当て手続きの撤廃を目指す。他方、米国側については、国内産業が影響を受けやすい農産品の輸入の扱いは事前に米議会と協議する方針とした。なお、USTRは3月に国際貿易委員会(ITC)に対して、米国側の関税を撤廃・削減した場合の経済効果を分析するよう要請している。ITCは9月16日までに非公開で分析結果をUSTRに報告する予定。

電子商取引では、デジタル製品への関税不賦課や国境をまたぐデータ流通の自由、自国のコンピュータ設備の使用・設置要求禁止、政府によるソースコードやアルゴリズムの開示要求禁止などの規律確保を掲げた。国有企業にかかるルールについては、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の定義(注2)に基づき、財・サービスの購入と販売について、国有企業に差別的な待遇を与えず、WTOの補助金および相殺措置に関する協定を上回る規律導入などを目指す。また、汚職防止も項目に挙げており、政府関係者の汚職を防止するため、企業の決済に関する文書保存や公務員に対する高度な倫理行動規範の設置のほか、マネーロンダリング防止策などを求める。

労働については、団結権や団体交渉権の保護、強制労働や児童労働の撤廃などILO宣言にあるルールの採用・維持に加え、強制労働下の他国で生産された製品の輸入などを禁止するようケニア側に求める。環境では、質の高い実効性のある義務規律を導入し、違法漁業を取り締まるための監視強化や違法漁業を誘発するような漁業補助金の禁止などを目指す。

(注1)TPA法に基づき、米国政権は交渉開始30日前までに交渉分野・目的を公開することが義務付けられている。また、貿易交渉を開始する90日前までに、交渉開始の意思を議会に通知することを大統領に義務付けており、USTRは3月17日にケニアとの貿易交渉開始意思を議会に通知した。

(注2)USMCAでは、企業の過半の株式や議決権を政府が直接または間接的に有する場合などに、当該企業が国有企業に当たるとしている。

(藪恭兵)

(米国、ケニア)

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