4月に55万5,000人の正規雇用喪失、過去20年で最悪

(メキシコ)

メキシコ発

2020年05月13日

メキシコ社会保険庁(IMSS)は5月12日、民間部門の正規雇用者数は4月30日時点で1,992万7,696人と発表した。前月比で55万5,247人の減少(添付資料の図1参照)となり、1カ月の雇用喪失としては少なくとも過去20年で最多となる。新型コロナウイルス対策の休業要請が大きく影響しているが、2009年4~5月の新型インフルエンザ(H1N1)感染拡大時の正規雇用喪失が同2カ月の合計で17万1,694人だったことを考慮すると、非常に大きな減少だ。4月の正規雇用者数は全体で前月比2.7%減少したが、そのうち、カリブ海リゾートのカンクンがあるキンタナロー州が18.1%減、バハカリフォルニア半島のリゾート地ロスカボスがある南バハカリフォルニア州が10.8%減、メキシコ人が好む観光地アカプルコがあるゲレロ州が6.3%減と観光業の打撃が大きいことがうかがえる。

アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領(AMLO)政権が2018年12月に発足して以降、正規雇用の増加ペースは下降しており、過去12カ月間の正規雇用創出は4月末時点でついに45万1,231人のマイナスに転じた(添付資料の図2参照)。メキシコは過去5年間の経済活動人口の増加が年平均で約87万人にも及ぶ若い人口構成の国であり、正規雇用創出が常に大きな課題であるため、この状況は非常に憂慮すべき事態といえる。AMLO大統領は4月5日、経済危機対策で2020年内に200万の雇用を創出すると意気込みを語った(2020年4月7日記事参照)が、4月だけで55万以上の雇用が失われ、前途多難な状況だ。

企業向け支援の乏しさ際立つ

大量の正規雇用喪失の背景には、政府の雇用確保に向けた企業支援の不足がある。全国工業会議所連合会(CONCAMIN)が会員企業に対して5月1~4日に実施したアンケート調査によると、新型コロナウイルス感染による影響に関連して何らかの支援を受けたという企業の比率は、連邦政府の支援で3.88%、州政府の支援だと8.94%で、連邦政府の支援がほとんど企業に届いていない状況が分かる。連邦政府が正規企業に対して提供している2万5,000ペソ(約11万円、1ペソ=約4.4円)の小規模融資(2020年4月28日記事参照)についても、申請した企業は5月11日午後3時時点で14万1,965社にとどまっており、目標の64万5,102社には遠く及ばない。貸し付け規模(2万5,000ペソ)や金利水準(6.5%以上)を考慮すると、グアナファト州が独自に提供している融資(2020年4月30日記事参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、貸し付け規模最大200万ペソ、金利5.0%)などと比べると、企業にとって魅力が乏しいことが原因と思われる。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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