ガスプロム、長期契約に基づくポーランド経由での欧州向け天然ガス供給を終了

(ロシア、米国、ドイツ、ポーランド、欧州)

欧州ロシアCIS課

2020年05月28日

ロシア国有ガス会社ガスプロムはこのほどロシア西部からベラルーシ、ポーランドを経由してドイツに至る天然ガスパイプライン「ヤマル・ヨーロッパ」(YEP)を通じた欧州へのガス供給を停止した。インターファクス通信(5月26日)をはじめとする複数メディアが報じた。ポーランドとの25年間にわたる長期ガストランジット契約が5月17日に期限満了したため。今後はバルト海底を通過する天然ガスパイプライン「ノード・ストリーム」(NSP)、「ノード・ストリーム2」(NSP2)、およびウクライナ経由のガスパイプラインによる輸送で代替を図る。

YEPはロシアのトベリ州トルジョクからベラルーシ、ポーランドを経てドイツ東部のフランクフルト・アン・デア・オーダーに至る全長2,000キロに上るパイプラインで年間輸送容量は329億立方メートル。メディア報道によると、5月26日午前8時(ドイツ時間)にドイツ東部の圧縮センター「マルナウ」におけるガス供給量がゼロとなった。

YEPはオークション形式に基づくさまざまな契約期間での供給を継続する。既に今後の輸送に関するオークションが実施されており6月には93%、第3四半期には80%の稼働率となる見込み。7月上旬には契約期間2020年10月~2021年9月の入札が行われる予定だ。ガスプロムの広報担当者セルゲイ・クプリヤノフ氏は長期契約に基づくガストランジット輸送は終了したが、YEPを通じた欧州への供給は今後もさまざまなかたちで継続されると述べた(「コメルサント」紙5月15日)。

他方、代替経路を通じた供給は盤石ではない。NSP2建設について米国は2020年1月に海底パイプラインの敷設作業関係者に対する制裁法令を制定した(2020年1月8日記事参照)が、ロシア側主導の作業によってNSP2が完成する見通しであることから、今度は試運転やパイプラインメンテナンスサービス企業やガス購入者を制裁対象に含める可能性を示唆している(「コメルサント」紙5月26日)。

加えて、新型コロナウイルス感染症流行拡大による世界的なエネルギー需要の低下で、欧州におけるガス貯蔵施設が数カ月以内に満杯になること、ガス価格の下落に伴う欧州での液化天然ガス(LNG)需要が拡大していることもロシア産天然ガスの欧州への供給の支障となるとみられている。エネルギー専門のコンサルティング会社ブィゴンコンサルティングのマリヤ・ベロワ調査部長は「欧州におけるロシア産ガスのシェアは39%から34%に縮小する」と指摘している(「コメルサント」紙5月26日)

(齋藤寛)

(ロシア、米国、ドイツ、ポーランド、欧州)

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