エアバス補助金への制裁実施やオンラインプラットフォームに対する規制強化を懸念、2020年外国貿易障壁報告書(EU編)

(米国)

米州課

2020年04月13日

米国通商代表部(USTR)が3月31日に発表した2020年版外国貿易障壁報告書(NTE)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)において、EUについては大手航空会社への補助金、デジタル貿易や電子商取引(EC)にかかる障壁などが報告された。これまでもNTEでは、EU市場への参入やビジネス拡大にあたり、米国企業が様々な障壁に直面していると指摘してきた。

補助金については欧州大手航空会社エアバスへの補助金問題を取り上げた。米国は、EUが拠出するエアバスへの補助金を不当であると指摘してきた。2018年5月、WTOはEUの補助金をWTO協定違反とし、2019年10月14日には米国による年間約75億ドル相当の対EU報復措置を承認した。これを受け米国は、1974年通商法301条に基づき、2019年10月18日からEU原産品の輸入に対して、制裁関税を発動したとしている(注1)。

デジタル貿易やECに係る障壁としては、2019年6月に欧州理事会が採択した「オンライン仲介サービスのビジネス利用者のための公平性および透明性向上に関する規則」を取り上げた。この規則では、オンライン仲介サービス業者や検索エンジン運営者に対して、ビジネス目的のサービス利用者に契約条件を明示することや、検索結果のランキングを決める条件や仕組みなどの開示などが義務付けられる。同規則は2020年7月12日に発効予定だが、EU市場に参入する米国企業からは、市場参入障壁が生じるとの懸念の声が聞かれるという。

デジタル課税については、OECDとEUにおいて検討が続けられていたが、EU加盟国で合意に至らず、OECDで議論が続けられている。2020年末までにEU加盟国で合意に至らない場合は、EU委員会が再度各国に合意案を打診するとしている(注2)。米国は、デジタル企業を狙い撃ちするいかなる提案にも反対するとし、また、米国企業からはEU市場に参入する米国企業の差別につながるとの懸念が上がっているという。

また、欧州理事会は、2019年5月に医薬品の補充的保護証明書(SPC: Supplementary Protection Certificate)によって先発医薬品に付与される保護(特許権の存続期間延長)に関する欧州議会および理事会規則の改正を採択した。これにより、SPCで保護された医薬品であっても、一定の条件の下EU域外への輸出等のためにジェネリック医薬品やバイオシミラー(注3)を製造することが可能となった。この改正で、EU域内のジェネリック医薬品等のメーカーが、域外の製造業者と同じ条件で競争することが可能となるが、米国の製薬企業からは製品の転用などを危惧する声が上がっており、米国は今後の動向を注意深く監視するとしている。

NTEは、総論編(2020年4月8日記事参照)と各国・地域編から成る。

(注1)2020年2月にUSTRは、フランス、ドイツ、スペイン、英国製のエアバスに課している追加関税を、10%から15%に引き上げると発表し(2020年2月17日記事参照)、3月18日に発動した。

(注2)フランスは2019年7月にデジタル課税法を施行し、USTRはそれへの報復措置として、追加関税を課すとした。その後、2020年1月に世界経済フォーラムの年次総会で、デジタル課税に関わる国際課税ルールの策定に向け、フランスと米国が全般的な共通の枠組みについて合意に達したと発表した(2020年1月30日記事参照)。

(注3)バイオ後続品の総称。

(松岡智恵子)

(米国)

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