米商務省、地理空間画像分析用のAI技術を輸出管理対象に追加

(米国)

ニューヨーク発

2020年01月09日

米国商務省産業安全保障局(BIS)は1月6日、地理空間画像を自動分析するために設計されたソフトウエアを新たな輸出管理の対象に加えるとする暫定最終規則を官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで発表した。新規則は同日付で施行されたが、BISは3月6日までパブリックコメントを受け付ける。今回対象となった米国製ソフトウエアをカナダ以外の外国に輸出、再輸出(みなしも含む、注1)する場合は今後、BISの許可を得る必要がある。

カナダ以外の外国への輸出・再輸出には許可が必要

新たに対象となった地理空間画像を自動分析するために設計されたソフトウエアは、米国の輸出管理規則(EAR)の下で管理されている商務省規制品目リスト(CCL)上の輸出管理分類番号(ECCN)で「0Y521」シリーズの中の「0D521」に分類された(注2)。商務省は管理の理由として、この技術が流出した場合、地域の安定(Regional Stability)に懸念があるとしている。カナダ以外の国へ輸出・再輸出する場合、BISから事前の許可を取得する必要があり、審査はケース・バイ・ケースで判断されることになる。申請はBISのオンラインポータルSNAP-R外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを通じて可能となっている。

パブリックコメントは連邦政府のポータルサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(ドケット番号はBIS-2019-0031)、もしくは、下記住所への郵送のいずれかで、3月6日まで提出できる。

Regulatory Policy Division, Bureau of Industry and Security,

U.S. Department of Commerce, Room 2099B

14th Street and Pennsylvania Avenue, NW

Washington, DC 20230

(識別番号としてRIN0694-AH89を記載すること)

輸出管理改革法を受けた輸出管理対象の追加との見方

2018年8月に成立した輸出管理改革法(ECRA)は、技術の発展に伴い民生用と軍事用の境目が曖昧になっている中、軍事転用の恐れのある「新興技術(Emerging Technologies)」と「基盤的技術(Foundational Technologies)」を新たに定義して輸出管理の対象にすることを定めている。同法を所管する商務省はまず「新興技術」に関してパブリックコメントの募集を行った(2018年12月17日記事参照)。しかし、募集を締め切った2019年1月以降、約1年間にわたり規則案は発表されていない。専門家によると、その背景には、米産業界が政府に対して過度な規制とならないよう働き掛けていた事情がある(2019年11月28日付地域・分析レポート参照)。

輸出管理に詳しい弁護士によると、今回の官報は「新興技術」に係る規則の制定については言及していないが、商務省がECRAで制定された権限を執行したものとみている。同弁護士の見解によると、商務省は今後も一般的な「新興技術」の定義を制定するのではなく、今回のように特定の規則案を発表していくかたちでECRAの権限を執行するとみられる。

戦略国際問題研究所(CSIS)のジェームズ・ルイス上級副所長は、産業界は人工知能(AI)のハードウエアやソフトウエアへの広範な規制を懸念していたので、今回の発表は歓迎されるだろうとコメントしている(ロイター1月3日)。他方、米議会は超党派で、中国などへの技術流出に懸念を示した上で、商務省に対して新規則の策定を急ぐよう要請していた。チャック・シューマー上院少数党院内総務(民主党、ニューヨーク州)とトム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)は2019年11月に連名で、ウィルバー・ロス商務長官に対してその旨の書簡外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを提出している。今回の規則に対するこれら米議員の反応は出てきていないが、場合によっては規制が限定的だと批判が出る可能性がある。

(注1)みなし輸出は、技術やソースコードを米国内で「外国籍の者」に開示することを指す。みなし再輸出は、技術やソースコードをある外国内で「他の外国籍の者」に開示することを指す。

(注2)CCLのカテゴリー0「核物質、核施設・装置およびその他外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の21ページ目を参照。

(磯部真一)

(米国)

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