ドイツ含むEU27カ国、ブレグジットに対して結束を重視

(英国、EU、ドイツ)

欧州ロシアCIS課

2019年11月06日

ジェトロが10月30日に東京で開催した「英国のEU離脱(ブレグジット)セミナー」(2019年11月6日記事参照)では、英国の視点からの講演に続き、ジェトロ・ブリュッセル事務所の井上博雄所長がEUの視点で、ジェトロ・ベルリン事務所の是永基樹次長がドイツの視点で、現状と今後の見通し、影響について解説した。

EUはブレグジット後の単一市場の維持を重視

英国は、GDPでEU加盟国中の第2位、人口で同3位とその存在感は大きく、EUにとってブレグジットの影響は大きい。また、英国は単一国としてのGDPは大きくなく、自由貿易協定(FTA)の交渉の中で米国やEU、中国に対し強い立場に出られるかは疑問だ。井上所長は、ブレグジットはEUと英国の双方にとって経済面ではマイナスだと述べた。

10月17日の新離脱協定案の合意について、EUは当初、メイ前政権と交渉した離脱協定案を再交渉しないスタンスだったが、ジョンソン政権との協議の中で合意なき離脱(ノー・ディール)を回避するために、EUと英国双方が譲歩した結果だと説明した。

しかし、EU側には譲歩の限界があるという。EUは米国に次ぐ世界第2位の市場規模であり、ブレグジット後の27カ国の結束がEUにとって重要。離脱交渉の中で英国に譲歩した結果、有利な条件下で離脱を志向する加盟国がほかに出てくることを回避したい思惑が強い。EUにとって、ブレグジット後の単一市場の維持が政治、経済の共通した重要課題とした。EUでは、ブレグジットがどのように実現するか、その後のEUと英国のFTAがどのような内容になるのか、また、英国のビジネス環境がEU域内と比較してどこまで変わるのかが大きな関心だと指摘した。

写真 解説するジェトロ・ブリュッセル事務所の井上博雄所長(ジェトロ撮影)

解説するジェトロ・ブリュッセル事務所の井上博雄所長(ジェトロ撮影)

複数の企業が英国からドイツへの移転を決定

ドイツも、EUの結束を重視、EU離脱の連鎖反応は何としても避けたい姿勢を堅持している。是永次長は「ブレグジット後は英国と経済・外交・安全保障で緊密に連携し、友好的な関係を維持したい一方、経済上の競争相手となるので、EU27カ国の結束を強める必要がある」とドイツのアンゲラ・メルケル首相が述べたことに触れた。

ドイツへの2018年の海外からの投資件数は過去最多となった。ドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)によると、英国からの拡張・移転を含むグリーン投資案件も過去最多で、その理由についての問い合わせに応じた企業のうち45%が「ブレグジットが投資判断を後押しした」と回答した。ドイツに設立された英国企業数は、ブレグジットの国民投票のあった2016年夏以降で34%増加していると指摘。また、英国の多くの金融機関がEU27カ国への拡張・移転を決めており、フランクフルトを行き先とした件数は、パリやダブリンより3倍近く多いと説明した。

写真 ジェトロ・ベルリン事務所の是永基樹次長(ジェトロ撮影)

ジェトロ・ベルリン事務所の是永基樹次長(ジェトロ撮影)

(宮口祐貴)

(英国、EU、ドイツ)

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