香港政府、小売業に対するデモの影響を懸念

(香港)

中国北アジア課

2019年08月08日

香港特別行政区政府(以下、香港政府)統計処は8月1日、6月の小売売上高(速報値)が前年同月比6.7%減の352億600万香港ドル(約4,928億8,400万円、1香港ドル=約14円)になったと発表した(図参照)。2019年2月以降、小売売上高の伸びは5カ月連続の前年同月比マイナスとなった。

図 香港の小売売上高と前年同月比の推移

品目別にみると、宝飾品・時計・高級贈答品が前年同月比17.1%減の57億5,400万香港ドル、医薬・化粧品が4.1%減の36億8,400万香港ドル、アパレルが8.2%減の36億1,800万香港ドルとなるなど、多くの品目で減少した(表参照)。

表 2019年6月の品目別小売売上高

香港政府統計処は、中国本土の消費者の消費マインドが慎重になっていることや、香港を訪れる旅行者の伸びの鈍化を理由として挙げた。また、「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模なデモが続くのであれば、小売業はさらに落ち込むとした。

今後、デモの影響がより顕著になる可能性

6月16日には、「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模なデモに主催者発表で200万人が参加し、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が謝罪することとなった。その後、同氏は「改正案は死んだ」と発言したものの、撤回を明言していないため、デモ隊は改正案の撤回やキャリー・ラム行政長官の辞任などを求め、今も香港各地でデモやストライキを繰り広げている。一部ではデモ隊と警察が衝突し、逮捕者や負傷者も出ている。

一連の抗議活動により、観光客や富裕層向けをはじめ、多くの小売店が影響を受けている。大規模デモの際に営業を見合わせた店舗や、ストライキのため閉店した店舗があるほか、大型商業施設内でデモ隊と警察が衝突する事態も発生している。今後も香港社会の混乱が継続すれば、香港の小売業への影響はより大きくなるだろう。香港小売管理協会(HKRMA)は、現下の情勢が継続した場合、2019年通年の小売売上高は2桁のマイナスになると予測している(2019年7月19日記事参照)。

また、観光客が減少する恐れもある。7月24日にアイルランド外務・貿易省が自国民に渡航警告を発したほか、英国やカナダが注意喚起を行っている(「NNA」7月26日)。日本の外務省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます在香港日本総領事館外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも安全確保を呼び掛けている。

「逃亡犯条例」改正案への抗議活動に端を発する香港の混乱は、6月の大規模デモから2カ月近くたった今も、収束する見通しは立っていない。香港でのビジネスでは、安全確保に努めつつ、抗議活動の長期化の可能性も考慮する必要があるだろう。

(楢橋広基)

(香港)

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