連邦倫理委報告書のトルドー首相支持率への影響はわずか、カナダ世論調査
(カナダ)
トロント発
2019年08月29日
カナダの建設最大手SNCラバリン・グループの贈賄事件に絡む、連邦首相府の介入疑惑に関する連邦倫理委員会の調査報告書が8月14日に発表された。本報告書は、ジャスティン・トルドー首相と側近がジョディ・ウィルソン=レイボールド法相兼司法長官(当時)に対し、刑事訴追された同社を不起訴にするよう圧力をかけた(2019年3月26日記事参照)と認定したが、複数の世論調査の結果をみると、トルドー首相率いる与党・自由党の支持率に大きな変動はなかった。
8月14~19日に実施されたアバカス・データの世論調査(有権者2,152人が回答)では、同調査報告書を「読んでいない、聞いたことがない」との回答が3分の1強(36%)を占め、「内容の一部について読んだ、聞いたことがある」との回答は48%で、「内容の多くについて読んだ、聞いたことがある」との回答は16%にとどまった。調査報告書の内容を把握していると回答した人のうち、「これまでの考えを裏付けるもの」との回答は78%で、「考えが変わった」との回答は22%だった。
同報告書について、トルドー首相は記者会見で「一部、承服しがたい部分もあるが、報告書を全面的に受け入れる。政権内で起こったことの責任は全て自分にあるが、SNCラバリンが有罪になると、経営が悪化し、大量の雇用が失われることを危惧した」と述べたが、同報告書の内容を把握していると回答した人のうち、「トルドー首相は労働者の失業を防ぐ方法を模索していた」との回答は43%で、「支援の必要のない企業に不適切な対応をした」との回答は57%に達した。クロス分析の結果、同報告書を読んだか聞いたことがあると回答し、かつ、トルドー首相が「支援の必要のない企業に不適切な対応をした」との考え方に変わったとの回答は全体の6%にとどまり、アバカス・データは、調査報告書の発表の影響はわずかだったと結論付けている。
なお、同世論調査では、政党の支持率は自由党と保守党がそれぞれ32%で、新民主党(NDP)は17%、緑の党は10%となった。首相にふさわしい党首は、トルドー首相が33%で、保守党のアンドリュー・シアー党首は31%、NDPのジャグミート・シン党首は16%、緑の党のエリザベス・メイ党首は14%だった。
また、8月16~19日に調査会社のイプソスとグローバル・ニュースが行った世論調査(有権者1,001人が回答)でも、自由党への支持率に関し大きな変動はみられなかった。同世論調査では、野党第1党の保守党(シアー党首)の支持率が前回から2ポイント低下の35%だったのに対し、与党・自由党の支持率は2ポイント上昇の33%だった。続いて、新民主党(NDP)は18%(前回と同じ)、緑の党は9%(2ポイント上昇)となっている。また、「首相にふさわしい党首は誰か」との設問では、シアー党首が32%、トルドー首相が30%とほぼ並び、メイ党首は21%、シン党首は13%だった。
支持率という点では、自由党は保守党と拮抗(きっこう)しているものの、これまでの実績などに関わる設問の回答は、自由党にとって厳しいものとなっている。トルドー首相の下での自由党のパフォーマンスについて、「評価する」との回答は36%(前回調査から3ポイント低下)で、「評価しない」は64%(3ポイント上昇)となった。さらに、「トルドー政権が再選に値する」との回答は33%で、「別の政党が政権を担うべき」と回答は3分の2(67%)に達した。
(酒井拓司)
(カナダ)
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