化学・生物兵器使用国への追加制裁に関する米大統領令、ロシアへの影響は限定的か

(ロシア、米国)

欧州ロシアCIS課

2019年08月08日

ホワイトハウスは8月1日、トランプ米大統領が化学・生物兵器の使用国への追加制裁を導入する大統領令に署名したと発表した。同大統領令は、1994年11月14日付大統領令に基づく国家非常事態に鑑みた追加措置を講じるものとしている。

米国大統領もしくは国務長官は、「1991年の化学兵器・生物兵器管理と戦争撲滅法」(CBW法)のセクション307(b)(1)「化学・生物兵器の使用に対する制裁の追加制裁条件」にのっとり、一定期間内に該当国がこれらの兵器の不使用の宣誓とその保証、立ち入り検査の受け入れなどのアクションをとらない場合、a.該当国に対する国際金融機関による金融・技術支援の阻止、b.米国の銀行(注1)による当該国政府(注2)への融資の禁止(ただし、農産品・食品分野を除く)と、セクション307(b)(2)に記載されている制裁(a.とb.に加え、輸出入規制、当該国の支配下にある航空会社の米国への乗り入れの停止)のうち、1つもしくはそれ以上の制裁を科す。米国財務省は、国務省と協議の上、必要に応じてこれらの措置を講じなければならないとしている。

同大統領令の中には、具体的に化学・生物兵器使用の疑いがある国の名前は記載されていないが、多くのマスメディアは、2019年3月に英国ソールズベリーで発生したロシアの元情報機関職員セルゲイ・スクリパリ氏とその娘ユリヤ氏の毒殺未遂事件に関連するものと報じており、2018年8月に発動された米国による対ロ追加制裁(2018年8月29日記事参照)の第2弾という見方がなされている(「コメルサント」紙8月2日)。

ロシアの国際社会への統合を支援する非営利自治機関、ロシア国際問題評議会プログラムディレクターのイワン・ティモフェエフ氏はフェイスブック(8月2日)で、「この制裁はロシアに向けられたものといえるが、ロシア政府は米国や国際機関から融資を受けていないため、影響は限定的だ。他方、民間ビジネスが輸出入規制を受ける、あるいはアエロフロートの米国乗り入れが禁止される可能性はある」と述べ、同大統領令の活用は米国省庁次第、と評した。

(注1)米国法もしくは米国の司法権下にある主体(外国の支店を含む)、もしくは、米国内にある主体で、貯蓄、送金、持ち株、ローン・クレジットの仲介、外国為替・証券・先物商品などの売買などの事業に、主体的にもしくはエージェントとして携わる者を指す。主体については、法人、合弁会社、パートナーシップ、協会、トラスト(企業合同)、グループ、サブグループ、その他組織としている。

(注2)政府、政府の下部機構、エージェント、代行機関などが含まれる。

(齋藤寛)

(ロシア、米国)

ビジネス短信 063ecef2a19ceb21