連邦参事会(内閣)、2030年を見据えた年金改革案を決定

(スイス)

ジュネーブ発

2019年07月26日

スイス連邦参事会(内閣)は7月3日、2030年までの安定的な年金財政運営を目指す国民年金改革(AVS21)に盛り込むべき措置について閣議決定した。

スイスで、先立つ5月19日に国民投票で可決された法人税・社会保障改革法案(TRAF)には、財政状況が悪化している老齢・遺族年金(AVS、日本の国民年金に相当)の財源確保の具体策が盛り込まれたが(2019年5月29日記事参照)、さらなる年金運営の健全化方策の必要性が認識されていた。

連邦参事会は今回、AVS21に下記の措置を盛り込むことで、年金財政への負担を28億フラン(約3,080億円、1フラン=約110円)削減し、2030年までの年金財政基盤を維持するとしている。

  • 女性の年金支給開始標準年齢の段階的引き上げ:現在64歳のところ、65歳(現在の男性の年金支給開始標準年齢)まで引き上げる
  • 年金支給開始年齢の弾力化:定年制度(男性65歳、女性64歳)を廃止し62歳から70歳までの間で自由選択
  • 年金支給開始標準年齢を超える国民による就業の促進
  • 付加価値税の0.7ポイント増税など

なお、女性の年金支給開始標準年齢引き上げに伴い、9年の経過措置期間中に7億フランの補償措置の実施が予定されている。具体的には、標準年齢より繰り上げ支給する場合の年金減額幅抑制や繰り下げ支給する場合の年金額引き上げに用いられる。年金支給開始標準年齢を超える国民の就業促進策には、労働に従事する年金受給者の支給減額幅1,400フランの維持、標準年金支給年齢を超えて社会保障費を支払った者に対する年金受給額の上乗せ、最大70歳までの年金支給開始期間の延長が含まれる。

AVS21については、2018年6月から10月にかけて国内コンサルテーションに付されている。連邦参事会はまた、TRAFが国民投票にかけられる前の2019年2月、2017年に法人税改革法案(TP17)が否決された際に批判された点を考慮し、TRAFでは法人税改革による減収見合い以上に社会保障の財政健全化措置を講じていること、さらに2019年内に社会保障改革法案を議会提出し、AVS21を進めていくことを発表済みだ。

今回のコンサルテーション結果や報道ぶりには、社会保障費用負担や付加価値税増税への抵抗感も多くみられる。連邦参事会は、連邦内務省に8月末までの法案作成を指示したが、2019年内に法案成立にこぎ着けられるかが注目される。

(和田恭)

(スイス)

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