多国籍企業など向け法人税優遇措置、2020年に廃止へ

(スイス)

ジュネーブ発

2019年05月29日

スイスで法人税と年金改革に関する連邦法についての国民投票が5月19日に行われ、66.4%の賛成で可決された。

スイスはこれまで、多国籍企業など特定の形態の法人に対し、優遇税制を認めてきた。しかし、これは国際基準に反するとしてOECDやEUから批判されており、もし改定されない場合、スイスはEUの「租税回避地ブラックリスト」に掲載される恐れがあった。政府はOECD、EUの法人税体系との調和の必要性から、賛成票を投じるよう強く訴えていた。

可決を受けて、特定の形態の法人の法人税率を優遇する制度(およそ10%)が廃止され、州法への受容や州での投票を経て2020年1月以降、全ての企業に対して一律の税率が課される予定だ。法人実効税率は州ごとに異なり、コンサルティングKPMGの調査によると、現在は12%台から24%台で分布しているが、州は税率を下げることが可能で、既に複数の州が改正税率を承認済みだ。改革後は州の法人税収が減少するため、政府は連邦税のうち州に再配分する割合をこれまでの17.0%から21.2%に増加し、州の負担を和らげる方針だ。加えて、今回の改定により、各州におけるパテントボックス制度(特許などから得る収入への課税控除)と、法人実効税率が18.03%以上の州における自己資本への課税控除の導入、50%を上限とするさらなる研究開発費の税額控除が可能になった。

政府は、改定に対する国民の理解を得るため、財政状況が悪化している老齢・遺族年金(日本の国民年金に相当)の財源確保も併せて提案していた。今回の投票結果により、2020年には政府は8億スイス・フラン(約872億円、1スイス・フラン=約109円)を新たに財源に充て、加えて雇用者・被雇用者の年金保険率をそれぞれ0.15%引き上げることにより12億スイス・フラン、総額20億スイス・フランの財源を確保することとなった。

(城倉ふみ、マリオ・マルケジニ)

(スイス)

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