欧州鉄鋼連盟、2019~2020年の鉄鋼市況の見通しを明らかに

(EU)

ブリュッセル発

2019年07月22日

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は7月18日、2019~2020年の鉄鋼市況および欧州経済の見通しPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を明らかにした。同連盟は、2019年の鉄鋼市況は最も楽観的に考えても停滞が続き、回復は見込めないとの見通しを示した。アクセル・エガート連盟会長は、EUの鉄鋼セーフガード措置について、2019~2020年にかけ段階的に引き上げられる予定となっている輸入割当枠(2019年1月18日記事参照)は停滞する鉄鋼市場に全く即しないとして、欧州委員会に対し同措置を現状に即応させることを求めた。

EUセーフガード措置の制度設計に批判強める欧州鉄鋼産業

欧州製造業の川上に位置する鉄鋼産業を代表する同連盟の立場から見ると、EUの製造業界はまだ最悪期には直面していないものの、今後、米国とその主要パートナー国間の通商摩擦の過熱や、英国のEUからの合意なき離脱が世界貿易に打撃を与え、企業の景況感や投資判断に悪影響を及ぼす可能性があるという。そうした中、同連盟は、EUの鉄鋼セーフガード措置の輸入割当枠が段階的に引き上げられることで、ゆがめられた輸入のリスクが拡大するために、EUの鉄鋼産業は大変な苦境に陥る恐れがあると指摘する。

EUの2019年第1四半期(1~3月)の鉄鋼消費は4,260万トンで、前年同期比で2.5%減少した。この需要低迷の中、EU域内の製鉄所から域内市場への鉄鋼供給が同4%減少した一方、EU域外(第三国)からの鉄鋼輸入は1%程度の減少にとどまり、EU市場の約4分の1を占める1,000万トンに上ったという。さらに同連盟は、こうした鉄鋼市場全体の需給の傾向だけでは分からない個々の鉄鋼製品レベルで進行する輸入における歪曲(わいきょく)の進行を指摘する。トルコや中国の原産品を中心に、現在の制度運用における輸入割当枠を意識した在庫積み増しや集中輸入が発生、低迷する欧州鉄鋼市場をゆがめる事態が一部製品〔自動車向け金属メッキ鋼板、鉄筋、線材(ワイヤーロッド)〕で発生しているという。EUのセーフガード措置について、市場の実情を反映できていないとして制度設計上の欠陥を指摘した。

同連盟は2020年の欧州鉄鋼市場について1%程度の成長を見込むが、今後、EUの鉄鋼割当枠の引き上げにより、EU域内生産者の供給が伸びないまま、第三国からの輸入が拡大するリスクがあるとし、警戒感を強めている。

鉄鋼ユーザー産業を含め、欧州経済の先行きに悲観的な見解

他方、同連盟は鉄鋼ユーザー産業の消費について、2019年は1.1%増、2020年は1.4%増の緩やかな成長を予測しているが、米国が主要経済国・地域(EU、カナダ、メキシコ、中国)からの輸入に追加関税を賦課するようになって以降、世界の通商基盤は著しく損なわれたと指摘。これらの国々での欧州企業のビジネス展開も難しく、投資意欲の減退につながるとの見方を示した。

(前田篤穂)

(EU)

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